医療DXは誰のためのものなのか?
この中で全国医療情報プラットフォームの構築、電子カルテ(電カル)情報の標準化、診療報酬DXの3つの柱が示されたが、とりわけ、2024年度中の電子処方箋の普及と、2026年度中の標準型電子カルの運用開始、2030年度には全ての医療機関に標準型電カル導入を目指すことが明記された。2024年度中の健康保険証廃止問題は別稿に譲るとして、電子処方箋、電カル導入の押し付けは医科のみならず歯科、薬局、さらに訪問看護ステーション、介護事業所に於いても死活問題となってくる。厚労省資料によると、電子カル導入率は病院で57・2%、診療所で49・9%となっているが、電子処方箋の導入に至っては山口県(令和5年10月)に限って言えば病院0件、医科診療所8件、歯科診療所0件と散々たる結果である。理由は明白である。そもそも必要ないからである。電カルを厚労省の言う標準型電カルに変更するとなると医療機関には多大な負担が生ずる。特に病院で使用されている電カル・レセコンの多くは各病院のオリジナルなシステムとして運用されており、政府や日医が提唱するような規格統一など簡単にできるものではない。病院の既存のシステムを解体してリニューアルするには数億円のコストがかかるそうである。その上、電子処方箋やサイバーセキュリティーのシステムを組み込もうとするとさらに億単位の負担が上積みされることになる。昨今のサイバー攻撃の例から見ても紐付けられた全てのデータが漏洩やハッキングの危険にさらされることは想像に難くない。停電やシステムダウンした時の対応も全く示されていない。当然、診療所にもそれなりの負担がのしかかってくる。つまり体制を整備していく上で、システムやメンテナンスを提供する営利企業が潤うだけである。
このプラットフォームには他にも様々なデータが蓄積される。将来的にはビッグデータの管理、分析のみならず診療までもAI(Artificial Intelligence)に全てを委ねることになる。医療DXの推進では積極的にAIを活用していくことが示されており、例えば、患者は病院まで行かずとも自宅でオンライン資格確認、受付、AI問診、AI診察、キャッシュレス決済で診療は終わり、薬は電子処方箋を転送しドローンに配達してもらう。これが目指すべき医療の姿なのだろうか。また、AIによる診療ではガイドラインやマニュアルに沿った医療以外は否定されるだろう。そこには医師の裁量権はなく処置や検査の必要な患者だけが対面受診する様になる。令和5年医師国家試験をAIに受験させたところ合格ラインには到達したが、終末期の医療では安楽死を選択したことが話題になった。これがいわゆる「ドボン問題」(禁忌肢問題)ならばAIは医師国家試験不合格だったはずだ。
暴走したAIによって人類が滅亡の危機に晒されるという映画がこれまでも数多く上映されてきたが、まんざらあり得ない事象でもない。医療も一元化による国家統制が始まる。行き過ぎた医療DXの推進は医療崩壊を招くことが目に見えている。医療界は一致団結して政府、財界の暴走を止めなければならない。一体、誰のための医療DXなのか、国民にも真実がほとんど知らされていない。