長引く医薬品不足 安定供給へ構造的問題の解決を
医薬品の供給不足が長引いている。我々の診療行為のほとんどは薬を切り離しては考えられない。世界に誇れる医療保険制度がありながら、治療に必要な薬が処方できないという事態が続いている。医療機関としては処方箋を出すだけで、後は患者が自由に薬局を選んで薬をもらう院外処方のシステムが医薬分業として政策的に進められてきた。この制度が浸透してかなりの時間が経過したが今に及んで、薬局で「このお薬は出せません」とか「1週間分だけなら出せます」と言われても他を探すのは無理である。仕方なく疑義照会で処方変更を依頼されるが、これでは薬局の独立性を目指した本来の医薬分業ではない。医療保険制度における薬局としての責任を果たすべきである。
長引く医薬品不足の発端は2020年末に発覚した後発医薬品メーカーによる不祥事である。製造工程で安全管理に関し不正を続け、実際に健康被害も出たために工場は生産停止となった。さらに都道府県による調査や事業者の自主点検で少なくないメーカーで問題が見つかり業務停止命令や業務改善命令が相次いだ。その結果、幅広い種類の医薬品の出荷が止まった。そこに新型コロナの感染拡大により解熱剤や感冒薬の需要が急増し供給が追いつかなくなった。また、市販薬ですら外国人に買い占められ入手困難になったのは記憶に新しい。
医療費にかかる薬剤費を削減するために、ジェネリック医薬品の処方が増える方向に誘導されてきた。薬局は後発品を処方することで、より高い調剤報酬が払われる仕組みになっており、それゆえ患者に選択権を与えない薬局も少なくない。薬剤費を下げるために安い後発品を処方させながら、薬局に高い対価を払うような診療報酬改定が続いているのはいかがなものか。行き過ぎてはいないだろうか。
保険医協会も消費税の損税問題を訴え続けているが、薬剤の値引きがなければ医療機関は丸々消費税分の損を抱えてしまうことになる。一方薬価は実仕入れ価格との差を毎回診療報酬改定で引き下げている。それがジェネリック薬品の値下げのスパイラルの原因となり、赤字になってしまえば生産企業としては安全性にかけるコストが負えなくなってしまうのではないだろうか。新型コロナのパンデミックの影響で世界中の物流が滞ってしまい、医薬品も例外なく影響を受けた。漢方薬の原材料は当然中国で作られているし、後発品は知的財産権の縛りが緩い新興国において安い製造コストで作られた原薬を輸入し、服用できる剤型に作り上げて出荷されている。輸出元の国は、さまざまな理由から輸出制限をかける危険性が避けられず経済安保上問題のある国も含まれている。人命に関わる薬を外交交渉の道具にされることがあってはならない。原薬から国産で賄えるよう先発メーカーが撤退しないような配慮も必要ではないか。その点では姑息ではあるがオーソライズド・ ジェネリックも今後さらに増えていくことが望ましいといえる。
当初、問題のあったメーカーが順次再開すれば医薬品不足は解消されるとの見方もあったが、現在もなお処方薬の2割にあたる薬3900品目で必要量が出荷できていない。市場任せにしては患者に必要な薬であっても作らない製薬会社が出てもおかしくない。これから医薬品を安定して使えるには、医療費削減ありきの診療報酬改定も考える余地があろう。また、医薬品が安定して供給できるよう、卸・薬局間で薬を融通するような、いざという時のためのストック確保の仕組み作りも必要ではないか。政府は零細な後発品メーカーへの経済的な支援だけでなく、この問題の構造的な原因を明らかにし早急な解決を図るべきである。
(2023年8月)