新型コロナ「5類化」と高齢者医療の現実

 4年前より介護施設の配置医師として入所者へのケアに当たりながら、訪問診療を中心に日常診療に取組んでいます。施設については4ヵ所受け持っているのですが、昨年の暮れから正月にかけて、これらの施設で次々とCOVID-19 が流行しました。入所者はみな5回のワクチン接種を行っているにもかかわらず、全員が罹患してしまったのは、どうしたことでしょうか。ワクチンは「重症化を防ぐ」といわれていますが、次々と症状が悪化して、亡くなった方もいます。治ったといって病院から退院してきた人も、食事がとれずに再び入院して、そのまま帰って来ない人も多くいます。治療薬のラゲブリオも使用してみました。値段は高いのですが、効いているのかどうかなかなか判断が難しく、内服して元気になった人もいれば、かえって重症になって入院した人もいます。回復した人も、薬を早く飲んだから効いたのか、服薬しなかった場合ではもともと投薬が必要なかったのかは不明で、認知症の薬とよく似た感じです。まだまだ後遺症の問題も含めて、新型コロナウイルスにはわからないことだらけのように感じます。

 5月8日から、感染症法の位置づけが2類から5類になりました。治療費も有料になり、行動制限もなくなりました。わずか数ヵ月前に施設でのクラスターが次々に発生して大変な目にあったものとしては、ウイルスは変わってないのに、制度だけが変わって、これで良いのか不安になります。コロナ治療薬は当面9月まで公費負担とはいえ、医療費が高くなれば、施設に入っている高齢者に検査や薬は使えなくなりそうです。確かに若い人にとっては、COVID-19に罹患しても軽症で済むケースが多く、無症状の人さえいますが、施設に入って集団生活をしている80~90代の高齢者にとっては致命傷にもなる恐い病気です。せめて、後期高齢者だけでも無料で診療できたら良いと思います。

 その後期高齢者ですが、通常国会において保険料引き上げ(年収153万円以上)を盛り込んだ「全世代型社会保障法案」が可決されました。昨年10月に窓口負担が2割にされたばかりなのに、保険料までアップとなれば高齢者の生活は成り立ちません。高齢者の保険料アップ分は「出産育児一時金」財源の一部に回るようで、「全世代型社会保障」の実現だとして、高齢者に偏っている給付を見直すと言っていますが、結局はあらゆる世代の国民に負担を押し付けて、社会保障への国の責任を後退させてしまうことにほかなりません。「異次元の少子化対策」と称して、子育て世代の経済的支援を含めた施策が考えられています。しかし、その財源ははっきりとしたものではなく、消費税の引き上げや社会保険料への上乗せも議論となっているようです。まさに、国民みんなの負担増です。子どもの医療費無料化は大事なことですが、その一方で、老人は2割負担、3割負担と増えるばかりであり、次は介護保険におけるサービス利用料が狙われています。ますます高齢者の生活は圧迫されてしまいます。

 子どもたちは都会に出て帰らず、残された高齢者は一人では生活できず、施設に入ります。そのお金はどうしたらいいのでしょう。施設では集団生活なので病気が次々とうつります。COVID-19 は大きな問題です。声を大にして言いたい。今まで日本のために頑張って高度成長を担って来た高齢者にとって、もう少し優しい社会にならないものかと。保険医協会では「負担増ストップ!」の取組みを強めています。会員の皆さんの協力をお願いしたいと思います。

(2023年5月)