トラブル続出のマイナ保険証 立ち止まり、健康保険証は存続を

 河野デジタル大臣による突然の「健康保険証廃止」表明から1年になろうとしている。「2024年秋の廃止」という期限を切った方針のもと、政府は、健康保険証を廃止してマイナンバーカードと一本化(マイナ保険証に)する法案を通常国会で成立させ、まっしぐらに突き進んでいる。そのもとで医療機関は、4月からスタートしたオンライン資格確認義務化によって、「健康保険証廃止」の片棒を担がされようとしている。受付でカードリーダーにマイナ保険証をかざせば、「瞬時に資格確認ができる」「患者の待ち時間が減る」「従業員の負担軽減になる」「便利だ」との触れ込みで、どの医療機関も強引にシステムを導入させられてきたのである。

 しかし、現実はどうか。協会が行った医療現場の実態調査によって、マイナ保険証では資格確認ができない事態が起きていることが分かった。カードリーダーにかざしても「資格なし」と表示されるという。要するに、拙速なシステム導入のもとで、マイナンバーカードに被保険者情報が確実に反映されないままシステムが動いているということだ。「資格確認ができない」となると、今の医療保険のルールでは「無保険者」と同じ扱いとなり、いったん10割を徴収しなければならない。患者の立場からすれば「健康保険証(マイナ保険証)で受診しているのになぜ無保険者なのか」となる。かかりつけの患者ならば、これまでの受診歴で何とかなるかもしれないが、初診の場合にはそうもいかず、患者からすれば、10割負担などとても納得できるものではないだろう。窓口負担では新たな問題も発生している。高齢者の負担割合が健康保険証の券面と異なっているというのである。8月に全国保険医団体連合会が実施した第2弾の実態調査で明らかとなったことだが、「健康保険証では負担割合が2割なのにマイナ保険証では3割と表示された」といった事例だ。10割負担もさることながら、このようなことが頻繁に起きれば、医療機関と患者との信頼関係は大きく損なわれる。資格確認ができない、負担割合が違っているなど、マイナ保険証の致命的な欠陥である。

 政府は「来年秋に健康保険証を廃止する」との方針を堅持したいため、トラブルへの対応策を示した。しかし、いずれも場当たり的なものとしか思えない。マイナ保険証での資格確認ができなければ、受付で「資格申立書」を患者に記載させ、それで資格を確認せよ、とか、マイナ保険証では券面に資格情報がないので、自分の情報を簡単に把握できる「資格情報お知らせ」という「紙」を予め交付する、などとしているが、健康保険証を残せば全く問題ないことであり、健康保険証を廃止する理由のないことを政府自ら主張しているようなものである。しかも、本来なら「瞬時にできる」とされた資格確認ができないことで、受付窓口は大いにパニックになっている上に、確認できませんからこれ(資格申立書)に記載してください、といった対応が求められる。「従業員の負担軽減になる」とのキャッチフレーズは全くの嘘っぱちである。前述の「第2弾実態調査」でも、9割近くの医療機関が「新たに受付業務が増えた」と回答しており、「患者への説明」にてんてこ舞いしているのが現状だ。

 こうしたトラブル続きのもとで、協会としては健康保険証で受診することが最良の策として、「今まで通り保険証を持参して下さい」とポスターで呼びかけている。しかし、「政府が勧めるマイナ保険証で受診できないのか」とのクレームもあったと聞く。国民皆保険制度の下で全ての国民が持つべき健康保険証を廃止して、マイナンバーカードに切り替えることは、任意取得のマイナンバーカードの「義務化」である。上から強引に、しかも拙速に推進しているところに様々なトラブルが発生しているのである。

 多くの国民は健康保険証の存続を望んでいるし、医療機関においても現状のままだと診療に支障が出る。ここはいったん立ち止まり、「健康保険証を残す」ことを訴えたい。

(2023年9月)

※「マイナ保険証の問題点とその狙い」について、学習会の開催並びに講師派遣のご要望がありましたら、当会までご連絡ください。