2022年4月改定「議論の整理」に対してパブコメを提出

次期診療報酬改定について、1月14日中医協総会で諮問が行われました。同時に「これまでの議論の整理」に対するパブリックコメントが募集され、当会では、1月21日に意見を提出しました。


1)今回の診療報酬改定に対する全体的な意見

(内容)今次診療報酬の改定率について
(意見)
今回も実質マイナス改定とされた。しかも、前回の2倍を超える0.94%のマイナス改定であり、到底認められるものではない。その上、令和4年度社会保障関係費の全体像では、大臣折衝を踏まえて決定された項目以外のものとして、「診療報酬(一般診療等の特例的評価等)▲300億円程度」が明らかとなった。これは、外来診療での新型コロナ患者への対応の評価である二類感染症患者入院診療加算の廃止などが見込まれていると考えられるが、今次改定の予算からは隠れたものとなっており、唐突に示されたものである。診療報酬本体のプラスで見込まれている金額は300億円であり、その他の項目を差し引くと、本体は▲100億円となる(※)。つまり、数値操作により、本体はマイナス改定であること、そして、実質は1%を超える大幅マイナス改定であることの事実を覆い隠したものであり、誠に狡猾な手法であると言わざるを得ない。2002年以降、累計10%に及ぶマイナス改定に加え、コロナ禍で一層疲弊した医療現場を改善させるには、基礎的技術料を中心とした診療報酬全体でのプラス改定が不可欠であることを政府は認識し、必要な財源を投入すべきである。

(※)本体300億円、看護職員処遇改善100億円、不妊治療保険適用100億円、小児の感染予防加算廃止▲200億円、リフィル処方箋導入▲100億円、一般診療等の特例的評価等▲300億円⇒合計▲100億円

 

2)「これまでの議論の整理」の項目に係る意見

項目番号:Ⅰ-3 医療機能や患者の状態に応じた入院医療の評価

(内容)入院医療の評価について
(意見)
新型コロナ罹患患者を受け入れた公立・公的病院の多くは、地域医療構想に基づく具体的対応方針の再検証要請対象医療機関であった。コロナ禍での医療提供体制を見れば、地域医療構想自体を解体的に見直す以外にないことは明らかとなった。にもかかわらず、機能分化と称して、病床削減を目的とした地域医療構想と診療報酬とを関連付けて見直しを行うことは大問題である。また、一般病棟用の重症度、医療・看護必要度、地域包括ケア病棟入院料の実績要件の拡大等を図ろうとしているが、中医協の議論では、提示されたデータは実情にあわないとの意見も出されており、そうした現場の実態を抜きにして、点数設定を行うことは慎むべきである。
 

項目番号:Ⅰ-4 外来医療の機能分化等

(内容)紹介状なしでの大病院受診時の定額負担等について
(意見)
紹介状なしで病院を受診した場合の定額負担額や保険給付範囲の見直しが示されているが、この間の議論から見ても、現在の紹介状なし受診の場合の初診5000円、再診2500円以上の負担とは別に、初診時2000円、再診時500円を保険給付の範囲から控除し、追加の定額負担を患者に求める仕組みが提起されている。つまり、低紹介率初診料等の要件見直しと連動させることで、「患者負担を増額した分で公費負担を軽減する」という構図ができあがり、実質的な「保険免責制」の導入に他ならず、「将来にわたって7割給付を維持する」とした健康保険法附則第2条に抵触するものである。将来的には、「かかりつけ医以外を受診した場合の受診時定額負担」にも拡大させることが危惧され、認められない。
 

項目番号:Ⅰ-5 かかりつけ医、かかりつけ歯科医、かかりつけ薬剤師の機能の評価

(内容)かかりつけ機能の評価について
(意見)
機能強化加算について、診療実態も踏まえた適切な評価を行うとして要件見直しが挙げられている。診療報酬上、機能強化加算の届出医療機関が「かかりつけ医機能を有する医療機関」として定義付けられており、当該加算を届け出ていなければ、「かかりつけ医」では無いとされる。このことは、医療機関の差別化、分断であり、最終的には、財務省を中心に度々提起される「登録医制」「診療報酬の包括払い」「患者のフリーアクセス制限」を目的としたものである。そもそも地域の開業医はすでに「かかりつけ医」としての役割を果たしており、機能強化加算など、かかりつけ機能を趣旨とした加算点数の廃止を求める。診療報酬上で評価するのであれば、全ての医療機関が算定できるよう、基本診療料の引き上げによって行うべきである。

(内容)かかりつけ歯科医機能の評価について
(意見)
かかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所(「か強診」)については、医科における「機能強化加算」と同様の矛盾を抱えており、医科の「項目番号Ⅰ-5への意見」(上記)でも指摘している通り、医療機関の分断、医療へのフリーアクセスの制限につながる等、様々な問題がある。「か強診」ではさらに、同じ処置でも「か強診」か否かで点数が異なる「一物多価」と言える不合理な運用がされており、その弊害が色濃く出ている。そもそも、「かかりつけ医」とは、医療機関との信頼関係の下で、患者自身が選択するものであり、医療機関側が一定の要件を整えることで、その機能を有するとして評価されるべきものではない。か強診の枠組みそのものを廃止し、診療報酬上の評価は基本診療料の引き上げにより行うべきである。
 

項目番号:Ⅰ-6 質の高い在宅医療・訪問看護の確保

(内容)人生の最終段階における適切な意思決定支援に係る指針の作成について
(意見)
在宅療養支援診療所及び在宅療養支援病院の要件に、「人生の最終段階における適切な意思決定支援に係る指針の作成」を追記するとされている。しかしながら、そもそもガイドラインに基づいた内容を診療報酬上の要件とすることに問題があり、他の点数項目における要件も含めて廃止すべきである。とりわけ終末期医療の環境整備は、国側から押し付けられて行うものではなく、医療機関と患者や家族等の理解と同意を得た上で対処すべきものである。
 

項目番号:Ⅰ-7 地域包括ケアシステムの推進のための取組

(内容)リフィル処方箋の導入について
(意見)
大臣折衝を踏まえ、リフィル処方箋(反復利用できる処方箋)の導入、活用促進により、改定率0.1%分のマイナス幅を確保したことが示されたが、結局は、患者の受診回数を減らすことで医療費を抑制するということであり、導入そのものに反対する。また、中医協で出された具体的な議論では、病状が安定している患者について、医師は30日分の処方箋を繰り返し利用できる回数(最大3回)を記載した上で発行し、薬局においては、医師の指示どおり30日分ずつ調剤するとされる。これにより、病態の変化など患者の健康管理の判断を薬剤師が行うこととなるもので、医師法第17条に抵触することは明らかである。
 

項目番号:Ⅱ-2 令和3年11月に閣議決定された経済対策を踏まえ、看護の現場で働く方々の収入の引き上げに係る必要な対応について検討

(内容)働き方改革に対する加算点数での評価について
(意見)
今次改定の重点課題である「働き方改革」の下、医師、看護師など医療従事者の負担軽減を図る要件の見直しとあわせ、看護職員の処遇改善については加算点数の仕組みを講じる旨が示されている。しかしながら、人件費等を担保するためには、本来、入院基本料を大幅に引き上げることで対応すべきものである。政府側が指摘する「メリハリのある改定」とは、加算点数として設定することで、その対応の有無により医療機関の分断を図ることが企図されており、大いに問題がある。
 

項目番号:Ⅱ-5 業務の効率化に資するICTの利活用の推進、その他長時間労働などの厳しい勤務環境の改善に向けての取組の評価

(内容)施設基準の届出及びレセプト請求に係る事務等の見直しについて
(意見)
医療機関における業務の効率化、医療従事者の事務負担軽減を推進するため、施設基準の届出について更なる簡素化を要望する。一方、レセプト請求の中でも、記載要領のコード化は事務負担を増加させている。当会が行った会員アンケートでは、「請求事務の時間が増えた」とする回答が約半数、入力方法においても「手入力」を必要とするものが約7割で、「手間がかかる」「入力に時間がかかる」という意見が多く寄せられた。医療情報の集積化を目的としている上、事務の煩雑化を招いている以上、今次改定での撤廃又は凍結・延期を求める。
 

項目番号:Ⅲ-2 医療におけるICTの利活用・デジタル化への対応

(内容)オンライン診療について
(意見)
オンライン診療は、十分な検証がなされているとは言い難い。にもかかわらず、「オンライン診療の適切な実施に関する指針」の見直しは、「オンライン初診」を恒久化するもので、診療報酬上で新たな評価を設けることには断固反対する。日本医学会連合会では多くの疾患が「オンライン診療の初診に適さない症状」としており、「オンライン初診」はできないことは明白である。また、新型コロナの特例措置の実態を踏まえてオンライン診療の要件を見直すと言っても、時限的な取扱いの中で医学的エビデンスが構築できているはずもなく、診療報酬上で評価していくことには無理がある。「医療は対面診療が原則」という根本を貫き、遠隔診療の本来あるべき姿に立ち返って検討すべきである。

(内容)情報通信機器を活用した訪問衛生指導について
(意見)
訪問歯科衛生指導において、情報通信機器を通じて歯科医師が遠隔で歯科衛生士等に指示を行うという活用が想定されているが、医師が患者の状態を正確に判断できるのかなど、実用性の検証はまだまだ不十分である。
そもそも、医療は対面診療が原則であり、オンライン診療は対面診療の補完としての対応とすること。

(内容)データ提出について
(意見)
データ提出加算を届出要件とする入院料の範囲拡大は認められない。多くの中小病院では、当該加算の要件を整えることが困難である。そもそも当該加算を届け出ていなければ入院基本料等を算定できないとする要件そのものが問題である。また、データ提出加算の外来版として、生活習慣病管理料、在宅時医学総合管理料、疾患別リハビリテーション料等を算定する場合のデータ提出に係る新たな評価が提起されているが、診療所では物理的に対応不可能である。そもそも医療情報のデータ収集は、保険診療や審査支払業務とは無関係であり、診療報酬で評価すること自体問題で、ましてや要件化するなどは以ての外である。

(内容)オンライン資格確認の活用
(意見)
オンライン資格確認システムの活用による新たな評価が示されている。導入・利用状況が進んでいないことを受けて、同システムの活用を推し進めるためのインセンティブと考えられるが、問題は、マイナンバーカードを保険証として利用することにある。マイナンバーのインフラとレセプト情報等をリンクすることで、医療や健康情報など極めて秘匿性の高い個人情報が紐づけされるばかりでなく、漏洩した場合の責任を医療機関が負わされることとなるなど医療現場に大きな混乱をもたらすことになる。そうした懸念を払拭できないばかりか、環境整備の不備が改善されない中で、システム活用のために評価を設ける自体認められない。そもそもマイナンバーカードの保険証利用を中止するよう求める。
 

項目番号:Ⅲ-3 アウトカムにも着目した評価の推進

(内容)疾患別リハビリテーション料の要件見直しについて
(意見)
標準的算定日数を超えて行う場合の疾患別リハビリテーション料の要件見直しが挙げられている。すでに、状態の維持を目的に実施するリハビリテーション(維持期リハビリテーション)に算定制限が設けられていることも問題だが、医師の裁量権に踏み込んでアウトカム評価を推し進める見直しであれば、大いに問題である。そもそもアウトカム評価は、成果が出た結果の対価であり、「療養の給付」の原則から逸脱するもので認められない。また、リハビリテーションは、医師の診断の下、専門職によって行われる医療行為であり、患者のADL維持やQOLの向上に必要不可欠であることから、要介護者等の入院外の患者に対する維持期リハビリテーションは医療保険で給付するよう元に戻すべきである。
 

項目番号:Ⅲ-5 口腔疾患の重症化予防、口腔機能低下への対応の充実、生活の質に配慮した歯科医療の推進

(内容)院内感染対策の評価と初・再診料の引き上げについて
(意見)
新型コロナウイルスの感染拡大を受け、歯科医療機関では、「コロナ」禍以前の想定を上回る水準の感染防止対策が求められており、そうした実態を踏まえた初・再診料の引き上げは当然必要である。そもそも、患者一人当たり268.16円(※2007年中医協資料より)とされる院内感染対策のコストを考慮すると、現在の評価はコロナへの対応を抜きに考えても十分とは言い難く、また、院内感染対策への対応とは別に、初・再診料の医科歯科格差是正の観点からも引き上げが求められていることから、これらの点も含め、大幅な引き上げが行われるべきである。
また、院内感染対策の実施については、2018年4月診療報酬改定で施設基準という形で導入され、届出の無い医療機関に対しては、初・再診料への減算措置が設けられているが、院内感染対策は、全ての医療機関で当然に行われなければならないものであり、施設基準で評価すること自体が問題である。施設基準として評価する枠組みは廃止すべきである。

(内容)既存の点数の廃止と再評価について
(意見)
歯冠形成のメタルコア加算の廃止について、単に廃止するのではなくファイバーポストを含めすべてのコアについての歯冠形成の技術を正当に評価し、歯冠形成の点数を引き上げること。
歯周基本治療処置については、単なる廃止ではなく、それに見合った点数の引き上げを行うこと。

(内容)歯科用貴金属基準材料価格の随時改定方法の見直しについて
(意見)
今回、随時改定の実施基準と価格参照時期の見直しにより、一定の制度改善が図られているものの、これらは現行制度の枠内での緩和策にすぎず、材料価格急騰により「逆ザヤ」が発生する構造は依然として残されている。そもそも「逆ザヤ」額の多寡にかかわらず、国が責任を負うべき保険医療制度の中で、医療機関の持ち出しが発生すること自体が大きな問題であり、「逆ザヤ」が発生することが無い仕組みとなるよう、制度を抜本的に見直すべきである。

(内容)歯科技工問題への対応について
(意見)
歯科技工をめぐっては、いわゆる「歯科技工問題」(歯科技工士のなり手不足、その背景にある歯科技工士の長時間労働・低賃金などの諸問題)の解決が長年の課題となっており、標記の歯科技工料調査はこの問題への対応という意味も含めて実施されているものと思われる。
この問題の背景には、歯科医療の基礎的な技術料が長年低く据え置かれ、それらが歯科医院の経営状況を圧迫する中で、「7:3」告示に基づく歯科技工料金の支払いを妨げているという状況や、「7:3」告示に拘束力がなく、同告示に基づく歯科技工料の支払いを担保する制度的保障がないことが根本的な問題である。これらを考慮せず、単に歯科技工物の製作にかかる点数を見直すだけではこの問題は解決できるものではなく、「歯科医師と歯科技工士がともに成り立つだけの診療報酬上の評価を行う」ことを前提とした、抜本的な対応が不可欠である。
歯科技工に係る診療報酬上の措置としては、診療コストに基づく基礎的技術料の見直し、特に、歯冠形成、印象・咬合採得、試適、装着といった、補綴における歯科医師の技術料の見直しが必要である。これについては、前回(2020年)改定で一定の対応があったものの、補綴物の製作点数に係る点数の一部と、形成・印象に係る点数の一部が、ごくわずかに引き上げられたのみであり、こうした水準の引き上げでは、到底解決できるものではない。引き上げにあたっては、「歯保連試案」や「タイムスタディー」などに示される水準の点数へと大幅に引き上げること。それと同時に、適切な技工料が確実に歯科技工士に手渡るための実効性のあるルールの整備を行うことを求める。
 

項目番号:Ⅲ-4-1 子どもを持ちたいという方々が安心して有効で安全な不妊治療を受けられるようにするための適切な医療の評価

(内容)不妊治療に伴う患者負担軽減について
(意見)
一般不妊治療、生殖補助医療、男性不妊治療に係る医療技術等について、新たな評価を行うこととされ、具体的な内容も一部示された。保険適用により医療技術の標準化や利用者の負担軽減となる側面もあるが、中医協の議論では、現在の公費助成である特定不妊治療支援事業を廃止することが示唆されている。このことにより、逆に、妊産婦の経済的負担が増えることがあってはならず、妊産婦医療助成制度など公費支出による患者自己負担の軽減策を講じるよう提起したい。
 

項目番号:Ⅳ-1 後発医薬品やバイオ後続品の使用促進

(内容)後発医薬品使用体制加算等について
(意見)
後発医薬品の使用割合が高い医療機関に重点を置いた評価とするために、後発医薬品使用体制加算等の要件見直しが示されている。中医協の議論では、後発医薬品調剤体制加算と同様に減算規定を設ける意見もある。そもそも医療行為に対する評価ではなく、使用体制にかかる加算として診療報酬上で評価すること自体が問題だが、昨今の後発医薬品の供給不足により、当該加算の算定要件にかかる臨時的な取扱いも出されるなど、臨床現場は著しく混乱している。その根底には、国の行き過ぎた後発医薬品使用促進政策にあるが、「ペナルティ」の導入など要件見直しにより更なる混乱を招く事態は慎むべきである。
 

項目番号:Ⅳ-7 医師・病棟薬剤師と薬局薬剤師の協働の取組による医薬品の適正使用等の推進

(内容)湿布薬の処方枚数について
(意見)
薬剤給付の適正化として、湿布薬の処方枚数の上限を見直すことが示され、大臣折衝でも改革項目として明記された。現行の「1処方につき70枚」上限を更に制限することを示唆しているが、湿布薬の処方は、枚数、グラム数など部位によっても使用枚数が異なるもので、処方枚数に上限を設ける根拠がもともとない。中医協では処方枚数がグラフ化されたデータを基に議論も行われているが、急性期や慢性期で鎮痛、消炎の処置は異なり、一律に枚数を制限できないのが実態である。結局、今回の見直しは、「療養の給付」範囲の縮小という政策的意図を汲むものであり、容認できない。

以上