長期収載品の「選定療養費」化に反対
医師・歯科医師が薬剤を処方するにあたり、「医療上の必要性がない」ことがあろうか。
「いやいや、そんなのあり得ないでしょう。療養担当規則にも『投薬は、必要があると認められる場合に行う』と書いてありますよ」と苦笑いで一蹴されてしまいそうだが、驚くべきことに、厚労省の審議会である社会保障審議会や中央社会保険医療協議会の場で、真剣に議論が行われている。
議論の内容は、後発医薬品がある先発医薬品(長期収載品)を使用した場合に、その差額を窓口負担とは別に、患者に負担させるというものである。そして国が示す論点は、長期収載品の使用が患者の希望によるので「選定療養」の対象として保険給付から外す、と言う。繰り返すが、そもそも処方する薬剤は、「医療上の必要性がない」ことはありえず、それを否定することは処方権の侵害である。患者の希望ではなく、医師・歯科医師の診断により、患者の状態や治療上の効果・効能の違いなどを判断して選択し、使用されるものである。にもかかわらず、差額ベッドと同様に扱い、アメニティなので「選定療養」の対象だとする論理展開がナンセンスである。医師の裁量によって長期収載品が処方されたにもかかわらず、後発医薬品との差額を徴収されることは、健康保険法で禁止された「混合診療」そのものではなかろうか。また、治療上、長期収載品を使用しなければならないケースは当然あり、価格差を患者負担とすることは、不可思議な結果が起きることは疑いもなく、例えば、小児医療費助成制度で患者負担が無料であっても、薬剤自己負担が発生するようなことにもなる。ところが、厚労省では患者窓口負担増のモデルケースまで示し、患者・国民、そして医療従事者が理解、納得できるよう周知しないまま、12月中に結論を出すとしている。
この矛盾に満ちた議論の前提となっているのが、「骨太の方針2023」である。医療保険財源の枠内で創薬費用の捻出に「政策的合理性」があると主張、つまり、新薬開発のために、服薬等による健康管理を要する患者から追加負担を徴収した費用を充てるとしたのである。製薬企業の開発力、創薬力強化や医薬品の安定供給に向けての財源は、患者負担に頼るのではなく、政府の責任で補助金等による補填を考えるべきものであり、ここには、正当性もなければ、何ら合理性もない。したがって、議論の前提が間違ったまま進められているために、国策として完全にミスリードしている状況となっているのである。さらに、行き過ぎた後発医薬品使用促進政策によって引き起こされた現状の医薬品の供給不足が、この問題に疑問を投げかけてくる。厚労省は、長期収載品を使用した場合に患者負担増を求めることで、後発医薬品の使用を促進しようとする愚策をまたしても取ろうとしているからである。これでは、後発医薬品の供給不足が続く中で、供給不安の恒常化をもたらしかねない。結果、長期収載品を使わざるを得ない状況へ医療機関に追い込むとともに、患者の選択によらない、患者が望まない負担増を強いられる状況を引き起こしてしまう。
今回の提案が中医協等で議論されるのは、保険外併用療養費の枠内である「選定療養」であり、次期診療報酬改定に影響するからである。中医協の診療側委員は、「医療上の必要性」についての明確なルール作りを求めるにとどまっているが、間違った土俵の上で議論しても意味をなさないことを訴え、明確に反対意見を述べて頂きたい。当会では、11月21日に、「薬剤の自己負担に反対する」理事会声明を発表したが、この問題は、改正健康保険法(2002年)の附則に掲げる「将来にわたり7割給付を維持する」原則を形骸化させ、国民皆保険制度の崩壊につながるという認識のもと、引き続き政府の負担増計画の中止を求めて取り組む所存である。会員各位のご協力をお願いしたい。