社会保障費は生存権を守る重要な予算 防衛費との引き換えはありえない

 政府は7月29日、来年度予算編成に向けた各省庁からの概算要求基準(「基準」)を閣議で了解した。年金・医療など社会保障費については高齢化に伴う自然増分が問題とされ、毎回のようにいかに低く見積もるか(削減するか)が議論となる。「基準」では「自然増として4100億円の範囲内で要求する」としており、すでに2024年度予算概算要求の5200億円よりも1000億円以上も抑えた額とされている。2024年度予算では最終的に自然増を1500億円削減して3700億円程度としたことから、2025年度予算は「4100億円」からさらに抑えられることは想像に難くない。実際「基準」では社会保障費について、2013年度予算から続く「改革等の効果を引き続き適切に見込む」とした上で、「全世代型社会保障構築を目指す改革の道筋(改革工程)」(2023年12月22日)などに沿った改革を実行することで、「合理化・効率化に最大限取り組む」ことを求めている。「改革工程」に示されているのは、給付抑制、負担増を中心とした医療・介護制度改革プランであり、これらによる予算削減が狙われているのである。
 2025年度予算は、6月末に閣議決定した「骨太の方針2024」に基づいて、経済・財政一体改革を推進するとされているが、一方で「基準」において「重要な政策の選択肢を狭めることがあってはならない」とくぎを刺し、「歳出全般にわたり、施策の優先順位を洗い直し、無駄を徹底して排除しつつ、予算の中身を大胆に重点化する」とした。要は「財政健全化」(プライマリーバランスの黒字化)の旗を掲げつつ、重点とする施策には予算をつぎ込むことで、「メリハリある」予算編成を行う意向である。社会保障費は「合理化、効率化」の対象とされる一方で、防衛費は重点施策の位置づけであり、防衛力整備計画対象経費においては、「所要の額」として額を明記しないまま増額を見込んでいるし、義務的経費として一般会計から防衛力強化資金への繰り入れが予定されており、さらには「重要政策推進枠」としての予算確保も盛り込まれている。これらの根拠となるのは、2022年12月に閣議決定した「防衛力整備計画」で、2023年から2027年の5年間で防衛力の整備に43兆円が必要だとしているのである。「メリハリある」予算というのは、社会保障費を抑制し防衛費に回すこと、ともとれる。防衛費が必要ないとは言わないが、ここまでの予算化には疑問がある。
 防衛省をめぐっては様々な不祥事が発覚しているが、予算の関連でいえば、自衛隊員による手当ての不正受給が大きな問題となった。不正額は5000万円にも上っており、あろうことかそのことを発表していなかったことも明らかになっている。こうした省内の綱紀粛正の在り方も気になるが、7月末に開かれた「2プラス2」でのアメリカとのきな臭い合意事項もあった。在日米軍を再編して「統合軍司令部」を設置し、自衛隊が創設を予定している「統合作戦司令部」と連携するというものだが、東アジアの安全保障との名目で自衛隊が米軍の傘下におかれることにもなりかねない。当然、そのための防衛上の予算は求められるわけであり、「所要の額」の拡大も危惧される。防衛力の増強がどこまで必要なのか。社会保障費との引き換えにしてよいものか。平和憲法を掲げる日本においては、平和的外交等による安全保障の追求も重要な施策と考える。
 いずれにしても、閣議で了解された基本方針に沿って8月末には各省庁が概算要求をまとめていく。社会保障費は国民の生存権を守る重要な予算である。自然増分をも圧縮する施策がとられることは認められないし、そのことによる国民生活への影響は計り知れないと考える。(会報8月号「主張」)