物価高騰への対応も賃上げも診療報酬の引き上げが必要

 歴史的円安、ウクライナ問題、コロナ禍の反動など、複数の要因により生じている「物価高騰」は、国民生活のみならず、医療機関の経営にも多大な影響を与えている。マスク・グローブなどのディスポ品をはじめ、医療の提供に必要なあらゆるものの値上げにより、医療機関の経費は跳ね上がっている。特に有床の医療機関では、入院患者の食事や療養のための物資なども軒並み値上がりしており、事態は深刻だ。加えて、燃料価格高騰による電気・ガス等の光熱費の高騰も、医療機関の経費増に拍車をかけている。保団連が実施した「電力料金等の高騰に関する緊急アンケート調査」では、山口県内の結果をみても、回答者の約半数(無回答を除く)が、「対前年費で30%以上の値上げとなった」と回答している。ガス代・灯油代・食材費等についても同様に、大幅な値上げとなったとの結果であった。歯科の診療においては、タービンに使用するコンプレッサーや滅菌機など、高電圧で電力消費量の多い機器を恒常的に稼働させるという事情もあり、今回の電気料金の高騰は相当な痛手となっている。

 こうした物価の高騰は、医療機関で働く職員の生活も直撃している。岸田総理は年頭の記者会見で、「物価上昇を上回る賃上げの実現」を掲げた。今や「賃上げ」は、経営者にとって、人材確保や労働意欲向上という目的だけでなく、歴史的な物価高を背景に、従業員の生活を守る上で「不可欠」なものという認識になりつつあり、医療機関にとっても、今まで以上に避けては通れない課題となっている。

 物価高騰への対策も賃上げの実現も、医療界において必要なのは診療報酬上の手当てである。診療報酬は公定価格であり、医療機関はそのなかでの経営を強いられている。しかし、この間の診療報酬改定では、「限られた財源」を免罪符に、物価・賃金の上昇には到底見合わない改定率が繰り返されてきた。したがって、多くの医療機関では「物価高騰」や「賃上げ」と言った問題に十分に対応できていないのが現状であり、前述のアンケートでも「物価高騰、燃料費高騰により、院長給与大幅削減だけでは経営維持が困難」「スタッフが物価高騰に対応できるよう給料を引き上げたいが、それをできるだけの医療収益ではない」といった切実な意見が寄せられている。

 国や自治体も、医療機関を対象とした補助金の交付や、電力ガス会社への補助といった形で、物価高騰への一定の対策は講じているものの、補助額は限定的であり、医療機関の規模や診療科にもよるが、「焼け石に水」と言った印象が否めない。そもそも、こうした補助金による対応は、あくまで緊急的対応であって、公的制度としての医療を、国民に安定して提供するという責務に加え、首相が掲げる「物価高を上回る賃上げ」の要請に応えるためにも、政府は補助金による臨時的な対応ではなく、低診療報酬の現状を打開すべきである。

 「物価高騰」「賃上げ」への対応は、来年の診療報酬・介護報酬の同時改定では間違いなく重要な論点となる。保険医協会では医療機関の経営実態把握をもとに、診療報酬改善要求に取り組んでいく。診療報酬の引き上げを実現させるためにも、ぜひともご協力を頂きたい。

(2023年4月)