歯科技工問題を突破口に歯科医療費の総枠拡大の実現を

 昨年4月の診療報酬改定において、歯科では改定率が0・29%であった。これは金額にして約90億円。再診料を3点引き上げるとほぼ無くなるくらいの金額だ。これでは改定の財源として明らかに不足している。そこで厚労省として何を行ったかということは、協会報並びに全国保険医新聞でも指摘してきたので、歯科会員はご存じの方は多いと思う。歯科診療報酬の中から、歯周基本処置を突然廃止して135億円の財源を確保。また、処置としての歯周ポケット掻爬も廃止(※手術点数に整理)して26億円、メタルコア加算も廃止して17億円など、計178億円の財源を確保しており、それらを既存の技術料の引き上げや新規技術の点数に振り分けた、というのが厚労省の言い分だ。しかし、引き上げといっても微々たるものであり、新規技術もすべての医療機関が算定できる点数ではなく、とてもプラス改定を実感できる内容ではない。

 近年このような改定が繰り返されてきた結果、1ヵ月の収入から支出を引いた「収支差額」は、歯科ではかつて同額であった医科の半分程度にまでになってしまった。

 「おかしいことはおかしい」と現場の問題点について、協会・保団連では国や国会議員・マスコミ・世論に繰り返し訴え続けている。度重なる不合理な改定の影響を受け(山口協会でも以前から指摘してきた)全国の歯科技工士養成学校の学生募集停止、閉校に歯止めがかからなくなってきた。山口県でも、県内唯一の下関歯科技工士専門学校の来年度の学生募集停止が決まった。これで歯科技工士養成学校の無い県が全国で18校にものぼり、学生募集停止を合わせると21県となる。入学者が10名以下の学校が全国で47校中23校。定員充足率が5割未満(このままでは学校の継続が困難な水準)の学校が47校中28校となっている。

 国会議員、マスコミ、一般の方々に、歯科では初・再診料が医科の8割程度しかないと説明しても、意外と反応が少ない。しかし、歯科技工問題を説明すると事の重大さをすぐに理解してくれて、とても反応が大きい。歯科医療費総枠拡大は、そんなに簡単なことではなく、突破口がないと難しいと実感している。そして歯科技工問題の解決は、その突破口になり得ると強く確信している。最近では下関歯科医師会長、県技工士会長と共同で国会議員を通じて、「歯科技工問題は経済問題だ。歯科医師・歯科技工士の両者が成り立つよう、診療報酬を引き上げ、適切な技工料金が歯科技工士に手渡るようなルール作りをしてほしい」という要請を行った(会報590号参照)。

 先月、保団連の宇佐美歯科代表が日歯の新会長に就任された高橋会長を表敬訪問された際に、歯科技工問題に関連して高橋会長からは「歯科大学では歯科技工の教育は十分なされているとは言えず、このまま歯科技工士が減少すれば、国内で歯科技工物を作れる人が少なくなってしまう」との危機感を示された。さらに、アメリカでは総義歯を作成する場合は約40万円、韓国でも約18万円かかる一方、日本では総額約2万5000円であり、そもそも日本は補綴の評価が世界的に見ても低く、歯科補綴の診療報酬を引き上げない限りは歯科技工士の待遇改善は困難であると述べられ、歯科技工士の待遇改善に強い意欲を見せられたと報告があった。歯科技工問題は経済問題で、歯科医療費総枠拡大が必要という点ではまさに一致している。今後も日歯と懇談を重ねて歯科技工問題の解決に向けて共同歩調が取れればと期待されるところである。

 最後に、保険医協会では「保険で良い歯科医療の実現を求める請願署名」に取り組んでいる。歯科技工問題の解決に当たって不可欠である「歯科医療費の総枠拡大」、患者国民にとって重要な課題である「窓口負担の軽減」「保険適用範囲の拡大」を、医師・歯科医師、患者が共同で求めようという署名である。11 月に予定する署名提出に向け、会員各位はもう一回りのご協力をお願いしたい。