春闘賃上げ要求6%??(会報2月号「主張」)
連合が2025年春闘で掲げた目標では、賃上げ分3%以上、定期昇給相当分を含めて5%以上、さらに中小企業向けには格差是正と称して6%以上を目指すとされた。巷の業界は昨年同様に高水準の賃上げ継続となりそうだが、医療業界がこの要求に応えられるかと問われれば、多くの医療機関が「NO」であることは想像に難くない。保険医療機関の原資は診療報酬であり、従業員の賃上げは診療報酬が上がらない限り不可能である。2024年度の診療報酬改定で「ベースアップ評価料」なる点数が新設されたが、賃上げ幅の目標が診療所で対前年比1・2%、有床診・病院で2・3%と設定された。「ベースアップ評価料」を算定して従業員の給与を上げよということらしいが、ある病院長(一般病床310床)によると、「ベースアップ評価料」を算定しても職員の賃上げ総額の8割が持ち出しという危機的な状況になっていたとのことである。一方、大手企業はこの春から軒並み初任給を大幅にアップした。ユニクロが初任給を33万円にアップしたのを皮切りに、大和ハウス工業が35万円、東京海上日動火災保険に至っては41万円出すようである。保険医療機関はため息しか出ない。
この「ベースアップ評価料」はネーミングも品がないが、最大の問題点は療養の給付と関係のない点数に予算を割いたということである。これまでも、療養の給付と関係のないパイ(予算)を診療報酬の改定率に加えるのは「プラス改定に見せかける数字の誤魔化し」であることは何度も指摘してきた。また、「ベースアップ評価料」は保険診療としての収入に計上するにも関わらず、使徒が賃金アップにしか充当できないこと、修繕費や、備品、薬剤購入などには使えないことも問題である。患者からすれば、診療行為に対する代価を支払うことには納得できるが、従業員の給与に横流しして下さいとはならない。明細書に記載された「ベースアップ評価料」の説明を求められた窓口職員は何と答えれば良いのか。従業員の賃上げを否定するものではないが、保険診療とは無関係の点数が堂々と「診療料」として診療報酬点数表に記載されているのは誰がどう見ても異様である。中央社会保険医療協議会(中医協)の議論の中で、これを容認した中医協の診療側委員、さらには日本医師会(日医)の責任は極めて重いと言わざるを得ない。言い換えれば今後も従業員の賃上げは保険診療では補填しないと断言したようなものである。
厚生労働省(厚労省)は本年1月10日に「ベースアップ評価料(Ⅰ)」の届出要件を若干緩和した。1月17日、日医はこれを自分たちの手柄だと吹聴し、賃上げの原資となる重要なものとまで述べている。さらに各医療機関は積極的に届出、算定するよう各都道府県医師会、郡市区医師会に通発した。全く事の本質を理解していない。本来なら中医協や日医はこのような荒唐無稽な点数を議論する段階で明確に反対すべきであった。届出をためらっていた医療機関にとっては届出要件の緩和は朗報かもしれないが、厚労省の狙いは「算定できるものは算定しましょう」という保険医の細やかな欲を刺激し恒久化することである。そもそも国が医療経営にまで口を挟む権利もないはずだが、これに目をつけた届出を支援する有料サイトやベンチャー企業のDM攻勢も凄まじかった。実際、自院で対応できず税理士や公認会計士など専門家に依頼せざるを得ない医療機関も多かったようである。こうしたデータの収集は医療DXの推進にも絡んでおり、厚労省の策略に易々と乗っかるべきではない。医療界は一丸となって是は是、非は非で声をあげるべきである。(会報2月号「主張」)