医薬品供給不足に思う ~いち開業医の愚痴~(会報9月号「主張」)

 骨粗鬆症治療薬や抗てんかん薬、解熱鎮痛剤、抗生剤、鎮咳薬、糖尿病治療薬、麻酔関連薬、等々、次々に供給不足に陥る医薬品。新型コロナ感染症の蔓延や地震の発生など、突発的な事象が原因の側面もある。しかし、もっとも大きな原因は、不自然な後発医薬品への誘導政策であろう。医療費を削減することだけが目的と思しき後発医薬品への誘導は、創薬製薬会社の体力を削ぎ、無責任な後発医薬品メーカーの台頭を許した。安定供給を成せなかった場合の後発医薬品メーカーへのペナルティは事実上、次年度以降の薬価収載時に安定供給改善報告書を添付させることのみであり、これは「儲からなくなった薬品については、製造販売をやめて知らん振りをすることで良しとする」ことを推奨しているようなものである。

 この10月からは、長期収載品の選定療養が適応され、先発医薬品を選択する患者に対してさらなる金銭的ペナルティが課される。「自身の健康のために、毎日体に入れるものは、高くても良いものを選択したい」という普通の思い。この思いを利用したアコギな金集め。品がない。本当に先発医薬品と後発医薬品が全く同じ効果、同じ安全性であるならば、値段も同じにするべきであろう。「開発にお金がかかっているから、後発品よりも高い価格で優遇している」のであれば後発医薬品を購入するように患者を誘導するルールを設定するのは、矛盾である。自由競争させればよい。「医療費を削減したいので、後付後付のルールを作っているうちにごちゃごちゃになりました。すみません」と言えば可愛げがあるが、そうは言わずにあらゆる矛盾を現場に押し付けるのが今の政府の姿勢である。百歩譲って押し付けても良いが、患者、医療機関をむやみに対立構造にしないでいただきたい。医師も納税者であり、明日の患者でもある。決して社会の敵ではないはずなのに、なぜか国会議員や大衆紙などに言わせると、医師は金の亡者であるようだ。目の前の患者に自分が何をできるのかを日々考え、寄り添うことをしているだけで、飛ぶように日々は過ぎていくというのに。

 正直、点数改定も複雑すぎて、事前に自院の収益が改定後に増えるのか減るのかも把握できずに日々の診療を続けている。国内創薬製薬会社も、より良い薬を患者に提供するために日々研究を重ね、そのために大きな資本が必要となるが、これも「金儲け」の一言で一蹴されている。卸・薬局も医療機関の消費税損税の矛盾に板挟みに会いながら、円滑な薬の配送や供給量の確保のために日々駆けずり回っている。しかし、効率化の名の下に僻地などへの丁寧な仕事をしている中小の会社が淘汰されていっている。どの業種もみんな純粋に、病気と闘う患者のために、自分のできることを精一杯やっている。しかし、お互いがやっかみ、対立する構造を形成され、雑誌などがそれを面白おかしく煽ってくる。保育現場や学校などでも同様に、現場と社会とに対立構造が作られており、あたかも問題の原因は現場にあって、政府は無関係であるかのように装う。そんなことはない。規制と規制緩和の設定バランスの不具合が、あらゆる現場で不協和音を生んでいるのだ。その不協和音が国民同士の罵り合いを生む。どこにも悪人はおらず、ただルールに不具合があるだけだというのに。他者を蔑むのではなく、称え合う。そんな環境を生み出すようなルール設定をしてもらいたいものだ。

 日常診療に追われる中、新たな医薬品供給不足の報を受け、暗澹たる思いに駆られる令和6年長月の夜。(2024年会報9月号「主張」)