医科歯科連携の推進に 保険医協会の存在は重要(会報7月号「主張」)

 来月は山口県保険医協会第31回代議員会・第53回定期総会が開催され、来期に向けた活動方針について議論が行われる。各協会によって表現は違うが、「平和と医療・社会保障を国民へ」という根底に流れるものは同じである。そこで、代議員会・総会を前に、改めて保険医協会の意義を再確認したい。
 山口県保険医協会が設立されたのは1972年11月。国民医療の改善と保険医の経営・権利・生活を守ることが目的である。医師会や歯科医師会は、定款で「医道の高揚、学術の普及・発展、公衆衛生の向上を図る」ことを謳った学術団体であり、また行政の認可を受けてのもので行政関連の業務も担う公益社団法人である。対して保険医協会は保険医の要求に基づく事業や活動を進める自主的な団体であるという大きな違いがある。何度も呼びかけている署名活動も、主要な内容は、保険証廃止反対や医療費負担増反対であるなど、基本的に保険医協会に所属する医師・歯科医師自らの要求によるものであることは忘れてはならない。
 また、保険医協会には医科歯科どちらの医師も在籍するということで、医科歯科どちらの課題にも目が行くという利点もある。診療現場だけでない医科歯科連携ができるのも大きな魅力となっているはずである。実際に、医科の先生が歯科の低点数を含め歯科技工問題や歯科医師国家試験合格者定員制などに関心を示してくださり、署名活動に協力もして頂いている。患者の全身的な健康の向上のためには医科歯科連携は不可欠であり、確かに国も推進の方向で診療報酬体系に少しずつ反映されてきてはいるが、現場では、情報共有の不足や医科歯科双方がお互いの専門分野に対する理解の不足など、困難なこともまだまだ多い。
 昨年6月、北陸地方の10歳男児が前歯2本の脱落と下口唇裂傷でT市立病院を時間外に受診し、当直医(内科医)が破折と誤って診断し、再植治療ができなくなるという医療事故があった。脱落前歯はきちんと牛乳に入れ持参していたとのことで、患者側には外傷時の対応について一定の心得があったようである。しかしそれを十分に確認せず、破折と診断。本来縫合が必要なレベルの下口唇裂傷も経過観察として縫合されなかった。翌日は別の病院を受診し、歯の再植の可能性があったことが判明したことで損害賠償となった事例があったとマスコミが報じた。内科当直医に歯科的な診断や治療を求めるのは酷であるし、当番外の他科の医師に連絡を取るのが憚られるという気持ちはわかるが、患者さんにすれば、歯科口腔外科が標榜されている病院であるのに、との思いもあるだろう。患者・国民の生命と健康を守ることを考えれば、適切な連携ができるように医科・歯科間の風通しの良さを保っていくことは重要である。それを実現する上で、医科歯科一体で活動する保険医協会の存在は重要だ。支部幹事会や理事会の場、または種々の研究会・研修会の場は、他科の先生方と親しく会話や交流できる場として機能している。保険医協会は保険医の要求に基づく自主的団体であるからこそ医科歯科連携に限らず、日常の診療等で困ったこと、不安なことも口にしやすいと思われる。
 もちろん、医科歯科連携を阻む要因は様々であり、前述の病院の事例も、地方の救急医療がいかにギリギリの体制で回されているかという根本的な問題がある。医師・歯科医師の適切な連携が保障される医療提供体制を国・行政の責任で整備するよう引き続き求めて行く必要がある。(2024年会報7月号「主張」)