医療DXの推進に関する工程表(骨子案)に関する意見

当会では4月6日、医療DXの推進に関する工程表(骨子案)へのパブリックコメントを提出しました。
【パブリックコメントの募集URL】2023/4/6まで
https://public-comment.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=495220429&Mode=0


医療DXの推進に関する工程表(骨子案)に関する意見

山口県保険医協会

 「医療DXの推進に関する工程表(骨子案)」において、推進すべき具体的施策として4点示されているが、このうち「マイナンバーカードと健康保険証の一体化の加速等」「全国医療情報プラットフォームの構築」「診療報酬改定DX」に対して、意見を述べる。

1.マイナンバーカードと保険証の一体化(マイナンバーカード取得の義務化)、及びマイナンバーカードでの受診を前提としたオンライン資格確認の義務化に反対する。

健康保険法は保険者に対し、保険料を支払っている被保険者への健康保険証の発行を義務付けている。保険者の責任で、健康保険証が全ての国民に届けられることは、国民皆保険制度の大前提である。
マイナンバー制度の根拠法である「行政手続きにおける特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律」では、マイナンバーカードの取得を義務としておらず、あくまで「任意取得の原則」をとっている。
任意のマイナンバーカードの取得は自主申告(申請主義)となる。利益衡量によって利便性を上回るデメリットを懸念して取得しない者、あるいは高齢、独居、施設入所中など様々な理由によって取得できずにいる者もおり、それらは保険料を支払っていたとしても健康保険証を持たないため、医療(保険診療)が受けられなくなる。
健康保険証を2024年9月末で廃止するとしており、その上でマイナンバーカードと健康保険証を一体化することは、任意取得という法の原則を残したままマイナンバーカードの取得を義務化するという法的な矛盾を孕んでおり、マイナンバーカードを取得しない自由、使わない自由を侵害し、国民皆保険制度を揺るがす。
一方、マイナンバーカードによる受診を前提として、2023年4月より医療機関に対してオンライン資格確認が義務付けられた。療養担当規則の改正によって行われたために、オンライン資格確認が保険医資格にかかわるものとして、システム整備をめぐって現場は大きく混乱している。
政府も4月からの一斉スタートは困難と判断し、経過措置等を設けたが、「義務化」の方針はそのままとした。しかし、医療の現場では光回線が整備できないなど物理的問題とともに、費用負担や情報漏えい、セキュリティ対策など、オンライン資格確認に伴う様々な問題や不安がある。そうした、システムを導入しない、できない医療機関の実態に配慮することなく、「義務」として推進することは、対応できない医療機関を閉院、廃業に追い込むことになる。
こうした事態は地域医療の維持、継続に深刻な影響を与えかねず、良質な医療を全国に広く提供、確保するという医療法の理念を形骸化する。このことは保険料を払っても医療が身近で受けられない事態が拡大していくことでもあり、マイナンバーカード取得の義務化とともに国民皆保険制度の根幹にかかわる問題となる。
保険証の廃止、オンライン資格確認のいずれも期限を定めて「義務」として押し付けるものとなっている。国民に対して義務を課すのであれば、国民が納得できる議論や説明を行い、ルールに基づいて法的手続きを経るべきであり、国会審議を行うことなく、政府方針のみで重大な変更を進めることは、法治国家として許されない。
マイナンバーカードもオンライン資格確認も、希望する者が取得し、システムを導入すれば良いのであって、「義務」とすることによる国民への影響について、その重大性を認識すべきである。

2.マイナンバーカード、マイナポータルの利用を前提とした全国医療情報プラットフォームの構築は容認できない。

医療DXの肝となるのは医療・介護情報のビッグデータ化としての「全国医療情報プラットフォームの構築」であり、オンライン資格確認をその基盤に位置づけ、マイナンバーカードの健康保険証利用(マイナンバーカードと健康保険証の一体化)を求めている。しかし、これらについて「義務化」という手法があまりにも強引であり、医療機関はもとより国民からの納得が得られていないということについては、前述したとおりである。
「骨太の方針2022」では、「全国医療情報プラットフォーム」について、「オンライン資格確認システムのネットワークを拡充し、レセプト・特定健診等の情報に加え、予防接種、電子処方箋情報、自治体検診情報、電子カルテ等の医療全般にわたる情報について共有・交換できる全国的なプラットフォーム」だとしており、そのために今年1月からスタートした電子処方箋とともに電子カルテを「義務」として押し付けられることになれば、医療機関にとって新たな問題となってくる。
ここで集められる情報は、保険者、医療機関・薬局、自治体、介護事業者等のもつ各種データであり、これらはマイナンバー制度の下に集約されて、マイナポータルを通じて共有されることになっている。これらの個人情報は、医療機関間の情報のやり取りや本人への開示にとどまらず、「保健医療データの二次利用」として、民間事業者への提供も示されており、海外も含めて個人の医療情報が広く出回ることになる。それはまさに情報漏えいの危険性を広げることにつながる。
政府はマイナンバーの利用について拡大の予定であり、マイナンバー制度の下に医療だけでなく桁違いの個人情報が集積されていく。したがって、オンライン資格確認における個々の医療機関でのセキュリティレベルの問題もさることながら、様々な場面での情報漏えいを含めたセキュリティ対策の強化は大きな課題であり、国としての責任が大いに問われてくる。
にもかかわらず、この点に関して国の責任が不明確であることが、国民にとって大きな不安、不満となっている。とりわけ、マイナポータルは「利用者(国民)に不利益が生じても、故意又は重過失によるもの以外、国は責任を負わない」との規定に同意しなければ利用できず、一方的に利用者責任を押し付けられる仕組みとなっているなど、問題は山積みである。
また、セキュリティ対策上個人情報は極力、分散管理することが望ましく、とくにセンシティブな医療情報は別管理とすべきである。例えば、現在、各地域で「地域医療情報ネットワーク」がつくられており、すでに350のネットワークが存在しているが、これをマイナンバーとは別の医療IDによって集約、管理する仕組みを構築できれば、リスクの分散となる。

3.診療報酬改定作業の効率化である診療報酬DXが、医療の画一化、医療費抑制につながるのであれば問題

「診療報酬改定DX」とは、診療報酬や診療報酬改定にかかわる作業をDX化させることで、大幅な効率化を行い、システムエンジニアなど人的資源の有効活用による費用削減を目指すものとしているが、そのことによって医療にかかる費用全体を直接、間接的に抑制していく狙いがあると考える。工程表(骨子案)では、デジタル化対応の診療報酬点数表におけるルールの簡素化、明確化を図り、電子カルテを標準化することで医療機関のシステムを抜本的に見直す方向を示唆している。
しかし、診療報酬は「治療行為の価格表」であり、検査や、処置・手術には多くの方法や人的配置など、算定に当たって細かい要件が求められているだけでなく、無形の技術料である指導管理においては、患者によって様々なケースが存在する。これらの医療内容を機械的に処理し、運営コストをはじめとした経済的効率化を前提に、デジタル化の推進を図ることは、医療そのものの画一化することにつながりかねない。
AIによる画一的審査が医療現場を混乱させているように、診療行為のデジタル化が、医師の裁量権の侵害につながり、適正な医療提供の障害になるのであれば本末転倒である。診療報酬改定DXを医療費抑制の手段とすべきではない。

4.「医療DXの推進に関する工程表(骨子案)」において、当会が指摘した「マイナンバーカードと健康保険証の一体化の加速等」「全国医療情報プラットフォームの構築」「診療報酬改定DX」に対する問題点については、いずれも医療機関はもとより、患者・国民目線から完全に逸脱していることに起因する。国民におかれている実情を顧みることなく政府方針として拙速に進めることはやめて頂きたい