健康保険証は残すべき(会報10月号「主張」)
現行の健康保険証を廃止する(新たな健康保険証を交付しない)とした12月2日があと1ヵ月あまりと迫ってきました。デジタル化推進の政府方針のカギを握るマイナンバーカードの普及が思うように進まず、焦った政府は国民皆保険のもとすべての国民が所持する健康保険証に目を付け、「マイナンバーカードと一体(マイナ保険証)とする」という方針を強引に進めてきました。にもかかわらず、9月時点でのマイナ保険証利用率はわずか13.87%です。このまま健康保険証が廃止されて大丈夫なのでしょうか。
保険医協会では8~9月に「オンライン資格確認(オン資)をめぐる医療機関でのトラブル調査」、「高齢者施設等で健康保険証廃止に伴う影響調査」を実施しました。この中で、医療現場でのトラブルについて「あった」との回答が、前回(昨年11月)調査より2割も増加しており(75%)、依然として「オン資」にかかるトラブルが収まらない現状が示されています。要はオンラインでは資格確認がうまくできないため、多くの「無資格者」を生んでしまいかねないということなのですが、こうしたトラブル調査に対して河野前デジタル大臣は、「マイナ保険証の利用が増えれば、トラブルが増えるのは当たり前」「こうした調査は百害あって一利なし」と開き直りました。しかし、トラブルに対して多くの医療機関が現行の健康保険証で対処しているのであり、マイナ保険証の利用者が増えれば増えるほどトラブルが増加するというのであれば、なおさら健康保険証の廃止はありえません。「無資格者」が生まれることを当然視する無責任な態度は到底許されません。
このように相次ぐトラブルや個人情報の漏洩への危惧などにより、国民のマイナ保険証に対する不満、不安の声は止まりません。マイナ保険証の利用率が上がらないのはそのためです。政府はこれまで、「医療情報に基づくより良い医療の提供」「救急時、災害時の活用」など盛んにマイナ保険証利用のメリット論を振りまいてきました。しかし、いずれも国民を十分に納得させるものでなく、かえって疑問を抱かせるものとなっています。また、マイナンバーカードが任意の取得であることから、持たない、持てない人たちへの不安の解消として、「安心して保険診療が受けられるように」との触れ込みで「デジタルとアナログの併用期間(12月2日以降1年間は健康保険使用可)を設けた」ことや「資格確認書を職権で交付する」と強調しています。しかし、これらはあくまで健康保険証を廃止した上での「暫定的措置」であり、マイナ保険証への一本化が前提です。「デジタルとアナログの併用」というのであれば、現行の健康保険証と全く同じ形状、機能の資格確認書を新たに交付するのではなく、健康保険証を残せば済むことです。
自由民主党の総裁選では、健康保険証の廃止の見直し(「廃止延期」を含む)発言が相次ぎました。即座に取り消されたものの、健康保険証廃止を危惧する国民の声を意識せざるを得なかったものと思います。保険医協会はマイナ保険証に反対しているのではありません。政府の言う「デジタルとアナログの併用」を本来の姿にするためにも、現行の健康保険証が併用できるように「残してほしい」ということであり、このことは前述の保険医協会の調査で示された多くの国民の意見です。石破内閣は「納得と共感」を掲げています。健康保険証を12月に廃止することをやめてほしい、こうした国民の声に耳を傾け「納得と共感」を得た政策を遂行すべきです。私たちはその声をより大きく、強くするためにも、総選挙の結果にかかわらず、「健康保険証を残してください」の請願書名を継続することが大切でしょう。(2024年会報10月号「主張」)