世代間の分断を図って得をするのは誰か(会報6月号「主張」)

 岸田自民党総裁の任期切れに伴う自民党総裁選の結果を受けて、昨年10月に第一次石破内閣が発足した。そして1カ月もたたずに衆院解散、総選挙に打って出た。当の総理本人も「しばらくは解散しない」と発言していた中での出来事で、総理自身の意思なのか主流
派の重鎮の入れ知恵なのかは知る由もないが、支持率がご祝儀相場で高いうちに過半数を獲得して政権の安定を計ろうとしたのだろう。だが、目論見は外れ与党は過半数割れという結果に終わった。「政権交代が起こるかも」という期待も世論の中にはあったはず。衆院の内閣指名総理選挙でも一回目の投票は過半数の得票を得た候補はおらず決戦投票に持ち込まれたが、野党がまとまることができず、結果として第一党の自民党を中心とする少数与党での第二次石破内閣が成立したのは周知のとおりである。
 この結果には落胆した人も多いことだろうが、それでもそれまでの圧倒的多数の力で形だけの審議をしたうえで多数決でなんでも与党自公政権の思うとおりに法案が通るということは無くなるだろうことで期待したのではなかろうか。しかしながらその後の展開は全く違うものとなっ
た。
 野党が他の野党を出し抜こうとする展開である。
 まずは「103万円の壁」。国民民主党はこれを引き上げるなら(令和7年度)予算成立に協力すると言い出した。日本維新の会は「高校無償化」を持ち出して与党にすり寄った。そもそも野党が首班指名でまとまって行動し、連立政権が成立すれば(政策の良しあしはともかく)両方を達成することができたのではないか。逆に主導権は少数与党が握るという妙な展開となり、予算案は維新が賛成にまわり、成立した。
 さて、この維新、我々医療人にとって非常に厄介な主張をする存在となっている。医療費削減を与党以上に主張しているのだ。医療費を4兆円削減すれば保険料を年間6万円引き下げられるという主張だ。医療費削減を推進したい財務省にとっては願っても無い援軍である。
そしてその削減の中身はOTCの保険外しなどである。過去に当時の麻生太郎首相は「たらたら飲んで、食べて、何もしない人( 患者) の分の金( 医療費) を何で私が払うんだ」と発言し、努力して健康を維持している人が払っている税金が、努力しないで病気になった人の医療費に回っているとの見方を示したこともある。
 病気にかかっている人の負担を増やし、健康な人の負担を減らそうじゃないかという視点では全くの同根であり、現在健康な自分たちは健康で働いているのに、若い世代はなぜ高齢者の医療の負担をしなければならないんだ、今、手元に残るお金がほしい、という若い世代には心響く内容であろう。
 ただ、これを支持する人たちには自分たちもいつかは老い、あるいは病に倒れるかもしれないという視点が欠けている。いつまでも健康でいられると思っているのだろうか。その時はもっと少子化が進んでいて医療の進歩はあるのに、今と同じような医療すら受けられないかもしれない。「私は先が短いから、若い人のために治療は受けなくても良い」などといえる覚悟はあるのか。
 国民皆保険制度は世界に誇れる制度なのにそれを自分の手で壊そうとしているのが見えていないのだろうか。
 目の前の小さい利益にとらわれて大局を見失っていると思うのは私だけだろうか。そうなってからでは手遅れだ。
 参議院選挙はもうすぐ行われる。冷静に考えて投票行動をしてほしい。