私たちからの訴え

地域医療構想に基づく病床削減は見直す以外にない~いまこそ社会保障費削減政策の転換を~

 山口県医療緊急事態宣言が出されたのは、5月21日であった。新型コロナ確保病床の使用率は70%を超え、病床使用率、人口10万人当たりの療養者数ともに「ステージ4」相当に達した。5月末までであった新型コロナ感染拡大防止集中対策の期間もまた、6月20日まで延長された。緊急事態宣言が発令された都市部はもとより、山口県などの地方も含め、全国各地で病床逼迫が相次ぎ、本邦では、新興感染症に対応しきれない病床不足が白日の下にさらされたのである。
 そうした中にあって、改正医療法が5月21日に国会で成立した。同法では、新興感染症等の感染拡大時における医療提供体制確保を2024年度からの都道府県の医療計画に位置付けるとともに、病床再編のためのダウンサイジング支援としての財政支援の拡充が示された。これは、端的に言えば、医療費抑制のための病床削減を目的とした地域医療構想の実現を後押しするということであって、現政策の手直しに過ぎないものである。新型コロナ感染を踏まえると言っても、2025年における必要病床数を推計した既存の地域医療構想に基づく計画では成立しないことは明らかだ。実際、新型コロナ感染症罹患患者については、2019年9月に地域医療構想に基づく具体的対応方針の再検証要請対象医療機関とされた公立・公的病院でも多く受け入れられている。当初の計画通りにこれらの病床が削減され、新型コロナ感染が拡大していれば、医療崩壊は一層悲惨な状況になっていたことは言うまでもない。つまり、地域医療構想は解体的に見直す以外に方法がないのである。にもかかわらず、国は、地域医療構想の実現に加えて、医療従事者の働き方改革、医師偏在対策を「三位一体改革」として推し進め、効率的で質の高い医療提供体制の整備が必要だとするのは何故だろうか。
 それは、一貫した社会保障費削減政策に起因する。国は、1980年代に医療費亡国論を公言し、社会保障費の削減を主要命題として行政改革を突き進めてきた。1990年代からの新自由主義路線は最たるもので、保健所の統廃合による体制縮小、診療報酬の削減等による感染症病床も含めた一般病床の削減、医師や看護師養成数の削減など、本邦の医療提供体制を脆弱化させ、医療崩壊を招いた。新型コロナ感染拡大により医療崩壊となったわけではなく、もともと医療崩壊であった事態が、新型コロナによって一層悪化し、医療壊滅と言われるほど激しさを増したものである。そのことによる最大の犠牲者は、医療を必要とする患者、すなわち日本国民なのである。それでもなお、国の姿勢に何らの変化も見られないのは誠に遺憾と言うほかない。
 新型コロナを機に、生活様式を含め様々な変化が世界中にもたらされている。米国でさえ、財政支出を明確にし、「大きな政府」として踏み出したことが報じられた。果たして、本邦の為政者は、40年に及ぶ社会保障費削減政策の転換を実行し、「小さな政府」から脱却できるであろうか。そのためには、地域医療構想を再検討した上での新興感染症にも対応可能な病床、医療従事者の確保も踏まえた医療提供体制の在り方を議論することが必要である。医療費抑制を前提とした病床削減計画では、地域医療のみならず地域経済の衰退を招くことにもつながることを認識し、真に国民医療を守る施策を実行することを求めたい。

(2021年7月)