私たちからの訴え

マイナンバーカード普及のための強引な手法は許されない

 6月7日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2022」(骨太の方針2022)では、保険医療機関・薬局にマイナンバーカードによるオンライン資格確認の導入を2023年4月から原則義務化することに加えて、2024年度中を目途に保険者による保険証発行の選択制を導入するとともに、「保険証の原則廃止」を目指す方針が盛り込まれた。これまで国は、マイナンバーカードの普及のために、マイナポイント事業など、1兆円を超える規模の国費を投じ取得率の向上を図り続けているが、それでも進まないマイナンバーカードの普及のために、非常に唐突かつ強引な手法を取ってきたと言わざるを得ない。
 まず、医療機関にとって直接的に問題となるのはオンライン資格確認システムの導入が義務とされることである。6月5日の時点で、顔認証式カードリーダーの申し込み率は全国で約58%程度、その内、実際に運用がされている医療機関は約20%にすぎないという低水準にとどまっているが、そもそも、医療機関がマイナンバーカードによる受診に積極的でないのは、医療の現場において今まで通りの保険証による受診で何ら不都合が生じておらず、そもそも必要性を感じられないという点もさることながら、すべての医療機関が高度なシステムやセキュリティを構築できる状況のない中で、マイナンバーという患者の高度な個人情報を医療の現場に持ち込むことに強い抵抗を感じていることが大きい。そのような中で、オンラインによる資格確認の体制を取らない医療機関を保険診療から排除するような手法は非常に問題である。
 さらに問題なのは「保険証の原則廃止」だ。国民皆保険制度の下、基本的にすべての国民が持つことが前提とされる保険証をマイナンバーカードに置き換えることは、マイナンバーカード取得の実質的な義務化に他ならない。そもそも、個人番号法(行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律)では、マイナンバーカードの取得は、「任意」であるとされており、国民にカード取得を実質的に強制するような政策は法令に抵触するばかりか、プライバシー権の問題など憲法違反の恐れすらあり、到底認められない。また、マイナンバーは厳密な管理が求められているにもかかわらず、マイナンバーカードを保険証として日常的に持ち歩くことになれば、当然紛失のリスクは高くなる。マイナンバーカードはあらゆる個人情報にアクセスするためのいわばマスターキーのような存在であり、紛失した場合のリスクの大きさは、健康保険証の比ではない。国はカードの取得を呼びかけるパンフレットの中で「番号を見られても悪用はできない」「カード自体に個人情報は含まれない」等、カードを携行する上での安全性をアピールしているが、2018年の日本年金機構でのマイナンバー関連業務の外部再委託問題をはじめ、国の情報管理体制の不備が指摘されており、安全性に対する疑念が払拭されているとは言い難い。また、かかる情報社会の中では、想定外の情報漏洩、不正利用をされてしまうリスクというものは、今後も常に存在し続けると見るべきである。
 度重なるテコ入れを行った上でもなお、マイナンバーカードの取得率が向上せず、医療機関においてもマイナンバーカードによるオンライン資格確認体制の普及が進まないのは、情報漏洩をはじめとしたマイナンバー制度そのものの安全性に疑問があるだけでなく、それらの諸問題がクリアになっていないにもかかわらず、強引に政策を推し進められる姿勢に対する不信感が根底にある。国はマイナンバーカードの普及のために、医療の現場を巻き込む強引な手法を取ることをやめ、国民の信頼を得るに足るような、マイナンバー制度そのものの見直しを図るべきである。

(2022年7月)