私たちからの訴え

「歯科医療費総枠拡大アクションプラン」の推進を

 2022年4月からの診療報酬改定では、歯科に関しては、表向き0・29%のプラス改定とされたが、薬価等の引き下げ(▲1・35%)を含めると、実質マイナス改定であった。初・再診料や項目によっては基礎的技術料でもごくわずかな引き上げはあったものの、その財源は歯周基本治療処置やSPT2の廃止分等で捻出したものであり、新たに財源確保されたものでなく、従来の財源の中でのゼロサムゲームの域を出ない。当然、プラス改定を実感できる内容とは言えないだろう。「骨太方針」においても歯科重視の記述を入れてはいるが、掛け声だけで実際の厚生行政に反映されているとは言い難い。また新型コロナ感染拡大に伴ってマスクやグローブ、消毒用アルコールなどの供給不足が起こり、価格も上昇してコストが上がっているにもかかわらず現状の初・再診料はそれらを反映してはいない。
 歯科用貴金属価格の3カ月ごとの随時改定については変動率に関わらず、年4回実施されることとなったが、「逆ザヤ」問題の根本的な解消にはなってはいない。4月1日の改定実施を待たず市場はそれすらあざ笑うかのように高騰を続け、5月には異例の緊急改定を実施する事態となった。腰の重い厚労省が中医協で支払側の反対を押し切り、迅速な対応に踏み切ったのは、世論の後押しがあったことが大きい。過去の主張にも述べたが、貴金属の取引市場は新聞等で毎日報道されており、政府機関自らが市場価格調査にこだわる必要はない。取引市場から数字を得て、保険診療支払に関わるシステムの数字を変更すればよいだけなので毎月改定も可能なハズである。政府が必要な貴金属を購入し支給するべき、臨時の補助金で「逆ザヤ」を補填するべき、といった案も出ている。少なくとも、補綴治療をすればするほど赤字になるという異常事態は生じない制度とすべきである。
 当会が解決に向け取り組んでいる「歯科技工問題」も、そもそも診療報酬自体が低すぎることに起因しており、とくに、補綴物に関わる形成、印象採得、咬合採得、装着料といった歯科医師の技術料があまりにも低く抑えられていることが、「7:3」告示に基づく技工料の支払いを妨げる直接の原因となっている。
 こうした歯科を取り巻く諸問題が、2年毎の診療報酬改定を経ても一向に改善しない原因は、国の「低歯科医療費政策」にある。医療費増大が叫ばれる中においても歯科医療費は30年以上横ばいであり、医療費全体に占める歯科医療費のシェアは減少し続けている。この状況を打破するため、保団連では今期、「歯科医療費総枠拡大アクションプラン」を掲げ、歯科医療者・国民と一体で歯科界の長年の課題である「低歯科医療費政策」の打破を目指す運動を展開している。すでに国会内集会や厚労省要請を実施してきたが、10月には、歯科技工問題を考えるシンポジウムの実施を予定している。
 この取り組みの成否を握るのが、患者負担の軽減を求める運動だ。金パラ「逆ザヤ」問題や歯科技工料問題が示すように歯科診療報酬は「コスト割れ」を引き起こすほどの低水準であり、この引き上げは正当な要求である。しかし、ここでただ「点数を上げろ」だけでは歯科医師のエゴにしか映らず、患者負担増にもつながり、国民にそっぽをむかれてしまう。協会・保団連ではこうした歯科医療の置かれている現状を訴えるだけでなく、患者負担増に反対する取り組みを車の両輪の関係で行っている。今期は、「保険で良い歯科医療の実現を求める請願署名」の実施も予定しているので、会員の先生方におかれても世論の声を国会に届けるべく、窓口で署名運動にご協力いただくようお願いしたい。

(2022年10月)