私たちからの訴え

高薬価薬剤のもたらすもの

 平成10年代から新薬の価格上昇が目立ってきたが、薬価で最初に話題となったのが平成27年に発売されたC型肝炎治療薬、ソバルディとハーボニーであろう。そして、当初は悪性黒色腫を対象としていたオプジーボが、平成27年に同じ薬価(100㎎:約73万円)のまま、患者数の桁違いに多い非小細胞肺がんに適応承認されたことから、高額な新薬の問題がにわかに注目を浴びた。
 新薬開発については従来型の低分子薬は開発の限界に行きついたとも言え、今後は複雑な高分子を用いた生物学的製剤(バイオ)が主流となるのは確実で、生物学的製剤は開発・製造の困難性から価格も上昇するのは仕方ない面もある。
 しかし、オプジーボを1年間患者に使用すると2500万円の費用がかかり、非小細胞肺がんの適応患者5万人と仮定すれば、薬剤費のみで年間1兆7500億円との試算が発表されるに及び、「高額薬剤が国を亡ぼす」との懸念が強まった。
 ソバルディやハーボニーのように、高薬価とはいえ、限られた使用期間で疾病を治癒させ治癒後の医療費低減が期待される薬と違い、末期がん患者の延命に使用されるオプジーボのような場合、投与前にその有効性を確認することは困難で、投与中止の判断もまた困難な場合が多く、年余にわたり毎月、超高額な薬剤費が請求されることとなる。結局、オプジーボについては特例的に期中改定が実施され、最終的には官邸主導により50%のダウンで決着している。
 新たな薬価制度については、中医協の薬価専門部会で昨年から議論が続けられ、昨年末に「薬価制度の抜本改革について」がまとめられた。その骨子は、効能追加等による市場拡大への速やかな(年4回)対応、毎年の薬価改定、新薬創出加算の抜本的見直し、費用対効果の評価、外国平均価格調整の見直し等となっている。薬価の議論の中で特に問題となったのは、効能・効果について類似薬がなく、類似薬比較方式が使えない場合の原価計算方式による薬価算定方法である。製造経費や薬価算定根拠の正確性、透明性が担保できるのかが焦点とはなるが、製造原価を製薬企業が明らかにするとも到底思えない。薬価制度改革案は、基本的には新薬が上市されてからの対応が中心とならざるを得ず、これで今後出現するであろう高薬価の新薬の問題が片付くわけではない。
 改革案にある高額薬剤の費用対効果の評価については、すでに欧州諸国やカナダ、オーストラリア、韓国等で開始されているが、費用対効果不十分とされた薬剤は保険適用の対象とならない場合や、適用を制限される場合もあり、薬へのアクセスから除外された患者からの訴訟も起こっている。医療費抑制のために、効果が見込まれるであろう患者の選別を進め、対象患者を絞りすぎれば、対象外の患者をどうするのか? はたして自由診療とするのか? は大きな問題であり、将来的には混合診療への誘導となる懸念もある。〝命の沙汰も金次第〟の状況が出現することになりかねない。
 一方で、高額な薬剤を使用する医療側には何より最適使用ガイドラインの遵守が求められ、医師の資格や病院の施設要件等の様々な条件が付随してくるものと思われる。ガイドラインの行き過ぎた遵守は、これまた患者の薬へのアクセスを著しく妨げる可能性があり、治療行為の選択に関しての医師の裁量権を侵害する可能性もある。別の議論として、高薬価薬剤による財政破綻を避けるため75歳以上の患者を対象外として、薬剤の使用に関して「年齢制限」をかける方が良いとの考えもある。これまた社会的弱者の切り捨てに繋がりかねないもので、問題があると言わざるを得ない。
 今や、かつては夢想だにできなかった様な〝夢の薬〟を手に入れることができる時代となった。しかし、人類に福音をもたらすはずのものが、平等が原則の我が国の医療保険制度の根幹を揺るがし、使用を巡っては社会の各層へ相克をもたらしかねない状況である。いかに医療費の膨張を抑え、企業のイノベーションを評価し、患者の薬剤へのアクセスを確保するか、医療界に突き付けられた大問題である。

(2018年2月20日)