私たちからの訴え

誰のための医療制度改革なのか

 歴代政権は膨れ上がる医療費を抑制する手段として診療報酬を削減してきた。2012年診療報酬改定までは引き下げられた薬価は本体に回すことで財源を確保する合意ができていたが、2014年以降その建議も反故にされ続けている。この度、財務省は「本体はマイナス、全体改定率も2%台半ばのマイナス改定」を主張してきた。総枠が削られ、限られたパイの取り合いとなり、高額医療や高額薬価などに多くの尺を取られ、わずかな予算でやりくりを強いられる地方の開業医は益々経営が立ち行かなくなる。
 官邸や財務省、経産省、総務省が進める経済財政諮問会議や、財政制度等審議会、未来投資会議、規制改革推進会議などで議論されている様々な社会保障関連の議案は、手を替え、品を替え、医療費削減のツールとなっており、その最たるターゲットは診療報酬である。本来、医療行政と馴染みの薄い部門が自分たちの利益のために口を挟んで、次々とピンポイント攻撃してくる。診療報酬が下がると言うことは、保険医療機関の原資が減るがゆえ、従業員の処遇に影響が出ることに他ならない。賃金の3%アップを勧奨した政府の方針などクリアできる訳がない。補助金や公的資金の投入が望めない医療機関は、従事者の給与を上げるためには診療報酬を上げるしか手はないのである。萎縮診療では医療の安心、安全は担保できない。結果的に被害を被るのは患者である。
 9月末、厚労省は進まぬ病床削減に業を煮やして、再編・統合が必要と判断した病院名を公表する強硬策に打って出た。案の定、医療機関が少なく交通事情も悪い過疎地域、厚労省が示した「診療実績が少ない」とする科をそもそも開設していない地方の病院などから反発の声が上がり、全国知事会も「住民の不安をあおり、公平な視点とは言い難い」との声明を出した。診療実績のデータ集積期間も1〜4ヵ月とバラバラ、民間病院が入っていない、足切りラインとして設定された33・3パーセンタイルの根拠もないまま唐突に公表するなど、その解析方法、結果には統計学的な価値はない。再編・統合に努力した自治体に予算配分することをチラつかせ、来年9月までに結論を出すよう迫ってきた。先立っての弘前市長選挙では病院再編・統合が政争の具にされるなど、「にんじん作戦」に惑わされて住民不在、患者軽視の医療政策が進められないことを祈るばかりである。
 オンライン資格確認の導入、電子カルテ普及のための医療情報化支援基金なるものを創設するらしい。マイナンバーカードに被保険者資格の情報を紐付け、国指定の標準規格を搭載した電子カルテシステムを導入させようとしているようだが、そもそも、300億円の基金で全ての医療機関をカバーできるはずがない。カード普及のために医療をテコにしたとしか思えないが、制度設計そのものに大きな問題があることを認識しなくてはならない。すなわち、国民の医療情報、カルテの中身まで一元化することにより、患者も医療機関も丸裸にされ、国家による統制、監視が可能になることを意味している。個人の健康状態や納税状況まで把握できれば、魔女狩りや秘密警察もいらず、AIが支配する完全な管理国家ができ上がることになる。
 高齢化する医師、後継者不在の医療機関は、モタモタしていると自然と淘汰されるだろう。モチベーションは下がる一方だが、日本医師会がこのような状況に対して明確な反対をしていないのも気に入らない。一部の営利企業が潤い、国が得をするだけの施策、一体、誰のための医療制度改革なのか。霞ヶ関で机上の空論ばかりが先行しており、現場の医師や国民は置き去りにされている。