私たちからの訴え

診療報酬改定と政策誘導

 本年4月の診療報酬改定が迫ってきた。2月初旬発出の答申、3月初旬発出の正式告示・通知の内容が、向こう2年間の診療を左右することになるが、改定のたびにその内容は多岐に渡り、解釈をめぐって理解できない項目が数多く出される。政策誘導を図ろうとして実態に合わずに示される厚労省の作文が、医療現場を大いに混乱させるのである。そのため、3月末からは訂正通知や疑義解釈通知が次々と出され、継ぎはぎでの手当てにより、ますます診療報酬は複雑となっていく。不合理を抱えたまま診療を続けることは、患者への医療の質や安全を担保できなくなり、医療経営の安定も図れない。
 今次診療報酬改定率は、全体でマイナス0.46%であった。一方、本体については、プラス0.47%の引き上げ分(474億円程度)に加え、「救急病院における勤務医の働き方改革への特例的対応」として、別途本体プラス0.08%の引き上げとなった(126億円程度)。改定率決定前に示された「改定の基本方針」で「医師等の働き方改革」が重点項目とされたことからも、厚労省が力を注いだものと言える。したがって、診療報酬改定項目にもその意向が反映されると考えられるが、厚労省の点数操作、すなわち加算点数による評価については極めて注意が必要である。加算点数はあくまで財政調整のためのものであり、基本診療料の引き上げを抑え、政策誘導を粛々と進めていくものであることを認識しておかなければならない。過去、医療現場が基本診療料の引き上げを求めても、厚労省は加算点数で評価したと正当化してきた。不合理が発生しても一旦導入した項目を取り消すことには頑として応じず、加算の容認、あるいは加算の算定が普及していく月日を待ち、次期改定に向けて要件緩和を図ることで妥協させるという巧妙な手筈を取ってきた。今次改定の本体が僅かな引き上げである中において、同じことを繰り返させるのではなく、我々は基本診療料の底上げを求めていく必要がある。
 近年、新たな政策誘導として、「基金」方式によるものが見受けられるようになった。来年度予算では、従来、病床削減を目的とした地域医療構想推進のために活用されてきた「地域医療介護総合確保基金」について143億円程度が積み増しされ、「勤務医の働き方改革への対応」として措置されている。また、医療現場から懸念が相次いでいる「マイナンバーカードの健康保険証利用」の推進のために「医療情報化支援基金」として、読み取り端末、システム等の早期整備の支援のために768億円程度が措置された。当初300億円程度であったものが2倍以上に膨れ上がっている。患者が医療機関を受診するにあたっては、従来の健康保険証で何ら問題はないにもかかわらず、マイナンバーカードを医療機関に持ち込ませることを強引に推し進めようとしている。「読み取り端末が導入されているか否かを公表することも含めた実効的な措置を検討する」とさえ謳っており、現場軽視も甚だしいものである。これらの「基金」を診療報酬改定財源として活用し、全体でのプラス改定にすることこそ、患者、国民、医療従事者が求める医療保険制度の充実ではなかろうか。
 3月に、当会では新点数検討会を開催する。今後示される点数の位置付けも含め、改定内容を整理した上で不合理是正を訴えていくことを目的としており、会員各位にはぜひご参加頂きたい。実は、例年、「厚生局に質問しても返事がなかなか返ってこない」などとして、全国の保険医協会・医会に連日相談が寄せられている実態がある。各地の厚生局でも、厚労省が政策誘導のために思案をめぐらせた改定項目への対応に戸惑っているもので、こんなことが2年に1回繰り返されるのは、やはり尋常ではない。当会では、現場に即した診療報酬体系へ改善するよう、求めていくものである。

(2020年2月5日)