私たちからの訴え

山口県国民健康保険運営方針(素案)に対してパブリックコメントを提出

 来年4月から、国民健康保険の財政運営の責任主体を県が担う「国保県単位化」が開始されます。これに伴い、山口県は2017年9月に国民健康保険の運営方針【素案】を発表しました。同素案にはパブリックコメントが募集されており、当会では、10月19日、「意見」を提出しましたので紹介します。


 2017年9月に発表された「山口県国民健康保険運営方針【素案】」(以下運営方針)において、国民皆保険制度における国民健康保険の改変に際し、『市町村が運営する国民健康保険は、~国民皆保険における最後の受け皿となっています』とする運営方針の視点を尊重したうえで、私たち医師・歯科医師の立場から、下記の通り意見を述べさせて頂くものである。

1)国保の財政運営移管に伴い各市町に提示する標準保険料率は、現行の保険料引き上げにつながらないものとすること
 現在の国民健康保険料は各市町で異なっており、運営方針では、『当分の間一律の保険料とはしない』としている。今回発表された試算では、市町ごとの保険料を現行と改定後の差額について個別に試算しており、県内全体として▲362円の引き下げが可能となっている。しかし、個別にみると、長門市の▲18,362円(▲18.5%)から和木町の26,819円増(27.6%増)まで、市町によってかなりの増減幅が予想されることが判明した。
 引き上げが予想される市町においては、制度移行に伴う保険料の高騰を防ぐ施策を取ることは当然として、山口県においても、現行の保険料より引き上がらない標準保険料率とするために、一般会計からの法定外繰り入れなどを行ったうえで、各市町に提示すること。また、県の財政が厳しいこと、住民負担の増加を抑えること等も考慮すれば、国庫からの支出を増やすよう国に要請すべきである。

2)市町が独自に行う一般会計からの繰り入れ、減免制度の創設・継続を認めること。その際、繰入額は赤字扱い等のペナルティーを科さないこと
 財務運営が県に移行されても、保険料の徴収業務は市町が引き続き担うこととなる。今回の運営方針では、原則、市町の一般会計からの法定外繰り入れを認めず、仮に法定外繰り入れを行った場合は赤字ととらえ、必要に応じて指導・助言しつつ、解消に向けた計画を策定させるなど、厳しい措置を示している。
 市町が行う法定外繰り入れは、地域住民が支払い可能な保険料を設定するために必要な措置であり、地方自治の基本的な施策である。これは、保険料の高騰化を防ぎ、住民一人一人が助け合う皆保険制度として「支払える保険料」とすることで、収納率を上げることにも貢献している。このことからも、法定外繰り入れを行う自治体に対し、ペナルティーを科すかのような措置は住民の立場に立てば、到底認められるものではない。
 また、市町の独自繰り入れを原則認めないことは、徴収率を100%にできなければ、前年の未徴収分を上乗せして保険料を設定するか、未納者(+過去の借入分)を見越して高めの保険料を設定しない限り解消しない。さらに、収納不足分については、財政安定化基金が貸し付け、翌々年から3年間で返済させることとなっている。この様な制度設計では、「高すぎて払えない保険料」をさらに高騰させ、未納者へのバッシングが激化、住民間の分断を発生させる。また、少しでも収納率を上げるために、自治体が強引な徴収や差押えを行い、短期保険証や資格証明書の対象者が増加、さらに収納率が悪くなる、という悪循環に陥ることは安易に推測される。
 このままでは、市町の担当者は負債解消のみを目的に、住民の人権を無視した強引な取り立てを行わざるを得なくなる。収納不足分については、財政安定化基金からの貸付ではなく、交付金として繰り入れを行い、収納額低下の原因を細かく検討しながら、解消に向けた施策を市町の担当者と丁寧に検討していくことが最善策である。

3)原則全ての加入者に対して保険証を発行すること。長期未納者であっても、資格証明書を発行しない(させない)こと
 長期未納者に対して発行される資格証明書では、医療機関窓口での10割負担が一時的にせよ必要になるため、保険料すら払えない住民は、医療へのアクセスを制限される事となり、ひいては重篤化を招く恐れが高い。
 医師・歯科医師の団体として、受診抑制に繋がり、被保険者の尊厳を損なうことにもなりかねない資格証明書の発行は断じて認められない。よって、県として各市町が発行する資格証明書を認めるのではなく、未納解決のための懇切丁寧な個別相談等を行うよう要請して頂きたい。

4)保険料収納率目標の設定は取りやめ、長期未納者の徴収は、外部委託をせずに個別に聞き取りを行うなど、丁寧な対応を行うことを市町に要請すること
 運営方針では、『収納体制の確立』として、徴収業務の外部委託を可能としているが、財政運営と徴収業務を行う機関が切り離されることによって、住民の顔が見えなくなり、財政運営において数字のみを追求することになりかねない。これからの業務分担のなかで、収納率の目標設定を行うことは、収納率が低い自治体に対して強制徴収、差押えを強要させる意味合いが色濃く反映していると言わざるを得ない。
 保険料未納者は、非正規労働者の増加など社会的背景や保険料高騰の影響で、払いたくても払えない人が増加傾向にある。実際に徴収業務を担う市町担当者の意見を聞き、個別事情を把握することで、未納になった原因、解消に向けた行動を起こすことが出来る。国税徴収法第153条3項では『滞納処分を執行することによって、その生活を著しく窮迫させる恐れのあるときは、差押えをおこなってはならない』としている。保険料未納者への対応は、個別に被保険者との接触を計り、実情に応じた懇切丁寧な相談事業を行うことで解決を計ることが最良の策である。
 長期未納者への強制徴収、差押えは、短期的な解決しかもたらさない。次年度から再び未納が発生するうえ、生活の基盤がなくなるため、更なる生活困窮を強いられることになる。これでは、行政も住民も不利益を被るだけである。よって保険料徴収の適正な実施においては、強制徴収、差押えは行わないよう市町に要請すること。

5)保険料の平準化を行う際は、地域による加入者間の格差が生じないよう、医療提供体制の整備を行うこと
 国保の広域化は、それによって加入者の枠を増やし、財政運営の安定化を図ることを目的として執行される。しかし、同時に加入者間の公平性を担保することが前提となる。
 運営方針では、『当分の間一律の保険料とはしない』としているが、『将来的な統一へ向けて検討を開始する』ともしている。加入者間の公平性とは、保険料の統一だけではなく、地域で受けられる医療に格差を生じさせないこと、加入者の所得に応じて保険料を設定すること等も含まれる。現在検討が進められている地域医療構想、地域包括ケアシステムにおける医療提供体制の改変も含め、県内の全ての地域で同じ医療が受けられる体制が構築できた後に、保険料の統一を行わなければ、住民間の公平性は担保されない。県内での医療提供体制を構築することは、保険者となる県の重要な役割である。

6)県が新たに行うレセプトの点検において、医師・歯科医師の裁量を認め、不合理な返戻や減点を行わないこと
 今回の運営方針では、県による保険給付の点検が可能となった事に伴い、現行の国保連合会とは『異なる視点からの効果的な点検の手法を検討する』としている。保険給付の点検については、費用対効果、あるいは医療費抑制ありきの視点で行うのではなく、医師・歯科医師の裁量を尊重し、保険請求のルールに則した点検を行うべきであり、理屈の通らない不合理な独自ルールを持ち込まないよう、強く要請する。

7)データヘルス事業は、民間企業を利用するのではなく、県の責任において実施すること
 県民の健康を守ることは、保険者である県の責務である。特定健診の受診率向上や生活習慣病の重篤化予防等は、これからの長寿社会において重視すべき取り組みとなる。しかしながら、現在のデータヘルス事業においては、民間企業に業務を委託するところはあっても、主治医と事前の緊密な連携がないものがほとんどとなっている。これでは、事業の効果に疑問が出るばかりでなく、むしろ医師の裁量権を侵害し、患者との信頼関係を損ないかねないものとなってしまう。
 被保険者の健康保持・増進を図る施策の一環として、データヘルス事業を推進することに際しては、被保険者の特に機微な医療情報も含まれるため、個人情報保護の観点からも、民間企業を参入させることなく、県の責任において管理・運用すると同時に、医師・歯科医師を交えながら、最良の方策で実施するよう求める。

8)医療費適正化を名目として、被保険者にとって必要な医療を受ける権利を損なわせないこと
 ジェネリック医薬品の普及、適正受診・適正服薬を図ることは、限られた国保財政運営において必要な取組みともいえる。
 しかし、これらの取組みが「効率化」を理由に、レセプトデータ等から機械的に処理されるようなことがあれば、被保険者にとって過度な受診抑制を招くことになり、かえって疾病の重篤化を招き、ひいては医療費の増大に繋がりかねない。運営方針でも、『必要な医療を受けるべき被保険者の医療機関への受診が抑制され、これにより症状が重症化するようなことがないよう留意する』としているが、そうであるならば、医師・歯科医師の裁量権を十分に尊重し、過度な医療費通知やジェネリック医薬品との差額通知は控えるべきである。

以上