私たちからの訴え

失ってはならないもの

 昭和30年代は所謂昭和創成期であり、終戦間もないころと比べると、ずいぶんと生活レベルも向上していたのでは、と想像されます。
 皇太子様と美智子様の御成婚、プロ野球の天覧試合での長嶋選手のサヨナラホームラン、東京タワーの完成、マイカー時代の到来も感じることができた30年代。ITの進歩により機械が人間の代わりをこなし、情報通信技術の進歩により、かえって人間関係が希薄になってしまった現在と比べてみると、「あの頃は本当に良い時代だったなあ」と、感慨深いものがあります。
 現代に戻してみると、平成の世も来年で終わりを告げようとしている今、日本をはじめ世界中がものすごいスピードで変わって行こうとしています。米・中・露の覇権争い、世界規模の異常気象、隣国の核開発、イスラム圏の動向等、様々な要因が複雑に絡み合い、まさに世界中が混沌として、閉塞感さえ感じてしまいます。
 しかしながらこの10月からほんの2ヵ月前、久しぶりに爽快な気持ちになり、そして自問自答した出来事がこの山口県でありました。
 未だ、記憶に新しいかと思いますが、周防大島町で2歳の男児が行方不明になり、3日後、ボランティアの男性によって発見されたことです。「男児無事発見」のニュースを見て、胸を撫で下ろしたことを今でも覚えています。男児発見後は、そのボランティアの方の立ち振る舞い、発言に注目が集まり、連日報道されていました。「人の世に恩返しがしたい」「今の自分があるのは周囲のおかげ、社会に貢献したい」「もし自分が被災者だったらどう思うか?」この男性が、一瞬にして日本のヒーローになったのは、現代人が失ってしまった、他者との繋がり、相手を思いやる気持ちをストレートな言葉で発し、実際に行動されている姿を目の当たりにしたからだろう、と思います。
 まさに、「言うが易し行うが難し」です。
 これからの日本では、ますます平均寿命が延び、医療・介護も日々成長し変化していくのでしょう。患者さんが、自分らしい暮らしを人生の最期まで続けることができるようにするにはどうすれば良いか? 自分は医療・介護の分野で何を為すべきか? 医者として、人として、大切なものを失っていないだろうか? 自問自答しながら歩んでいかねばなりません。

(2018年10月5日)