私たちからの訴え

場当たり的「病床削減」をやめ、国民の側に立った医療政策を

 ここ最近、毎日テレビのスイッチを入れると、新型コロナウイルスの件で持ちきりです。日本国民全員がこのニュースに高い関心を抱き、企業でも個人でも感染を水際で食い止めることに躍起になっています。うがい・手指消毒・マスクの着用・検温に対する知識と意識の向上は医師としては喜ばしいことですが、これらは、毎年流行するインフルエンザの予防方法と同様であり、実は毎年、官民一体となって啓蒙活動をしていたはずなのに、国民の間には浸透しきれていなかったのかと思うと、少し複雑な気持ちにもなります。
 テレビを見ていてもう一つ思ったことがあります。コメンテーターの医師の方がずっと同じということです。調べて見ると、日本感染症学会専門医数は1564名でした。ちなみに日本糖尿病学会専門医は約1万7千名、日本循環器学会専門医は約1万5千名でした。これらの数字が多いのか少ないのか答えを持ち合わせてはいませんが、ほぼ毎日、自身の仕事を投げうってテレビ出演を引き受け、新型コロナウイルスの脅威を訴え、感染予防について繰り返し訴えている医師の姿を見るにつけ、何事も後手後手の対応しかしない厚労省、文科省の施策は、医学部のあり方の是正、適正な医師数の確保、専門医の偏在是正と、どれを取っても、場当たり的なものであり、そのツケがまた表に出てきた、と思えてなりません。
 そうこうしているうちに、新型コロナウイルス感染患者数が大幅に増えた場合、「一般医療機関も疑い患者を受け入れる」という政府の基本方針が舞い込んできました。基本方針では「患者の更なる増加や新型コロナ感染症の特徴を踏まえた病床数や人工呼吸器の確保」を求めています。まさに「ちょっと待ってくれ!」です。地域医療構想の実現に向け、2020年度に稼働病床数を1割以上削減と言い出したのは、政府ではなかったでしょうか。「1割以上削減した病院には全額国費で補助金を出す」と、ニンジンまでぶら下げて強行したのは政府の皆さんですよ、と。
 未知のウイルスに恐れ慄き、初動対策を失敗したために、ウイルス伝播を鎮圧できず、専門施設だけでは賄いきれないと判明するや否や、今度は病床縮小方針とは真逆の方針をいとも簡単に打ち出す。これでは「たまったもんじゃない」と怒りが込み上げてきたのが、医療に従事する我々の正直な気持ちです。
 医療圏単位で医療機関毎の役割を明確にし、機能分化することで全体の病床数を適正化する「地域医療構想の実現」とは、聞こえは良いですが、要するに医療費、とりわけ後期高齢者の医療費増加に注目した政府が、不必要な高齢者の入院こそ、医療費増大の最大要因だと位置付け、その対策として病床数の削減を打ち出したものです。
 この病床数削減については色々な問題を抱えています。地域によって求められる病床数は一律ではなく、民間医療機関では利益を出さなければ事業存続すらできません。また、在宅医療を行う開業医の減少、2025年に33万人の不足が予測されている介護職員の確保等、課題は山積みとなっています。これらの課題を解決せずに病床数削減を推し進めて行けば、近い将来、行き場の無くなった多くの高齢者が医療難民となってしまうことでしょう。朝刊に、厚労省が各都道府県に「患者数推計し病床数増を」と要請したという記事が出ていました。
 政府は目の前の火の粉を振り払うことに汲々とするのではなく、国民の側に立ち、長いスパンで考えた医療政策を推進してほしいものです。

(2020年4月)