私たちからの訴え

医療機関の「働き方改革」を考える

 2019年4月より、働き方改革が始動し始めた。これは2008年をピークに減少し続ける人口に伴い、労働力の低下を抑えたいという目的がある。そのため、①長時間労働の是正、②正規、非正規の処遇差の解消、③多様な働き方の実現、を3つの柱として挙げている。働き手を増やし、生産性を上げ、人口増にもつなげたいとの思いのようである。そのもとで、「有給休暇をきちんと取らせるように」「時間外手当をしっかりつけるように」「パワハラ、セクハラはいけません」と労務士さんから説明を受けた。趣旨は理解できるが、何かしっくりこないのは私だけだろうか。
 当院のように小さな診療所では、外来患者さんが少ない時、看護師さんたちは何かすることはないか、一生懸命探している。スマホを触り出し、通販のカタログを見始めたりもする。これを咎めるつもりはさらさらない。めったにないが患者さんが立て続けに来たり、検査が重なった時にテキパキとこなしてくれればそれでよいと考えている。病棟に至っては入院患者0名の時もある。多くて4~5名で日勤帯、看護師2名で対応しているが、入院患者がいない時、何の仕事をしているのかと気になることはあっても、覗きにはいかない。状態を見る患者がいないし、また彼女たちを監視したくないからである。入院患者がいなくても、当直の看護師は配置せざるを得ない。急患対応と彼女たちの収入確保のためである。こんな労働環境の中で、「週40時間以上の労働は違反です」「割増賃金を払って下さい」「夜間勤務の拘束時間は何時から何時までですか」と言われても、何と答えていいのやら。工場労働者と医療従事者を同じと考え、労働を時間で評価しようとすることに無理があるように思えてならない。
 確かに、ブラック企業として人をこき使い、利益を追求しようとするところもあり、取り締まりの必要性も理解はできる。しかし、法律として画一的に条文化することはどうかと思う。医療機関には女性が多い。家事、育児、介護との両立等を可能とする労務管理が管理者に求められるようになっており、有給休暇が取りやすいなど、スタッフが良好なパートナーとなり得る雇用関係を築くことは、信頼される医療の土台となる。スタッフが長く働き続けられる職場づくりはどうあるべきかを考えよう。
 いま、すべてのことが、契約として動いている。自分の身を守るためにしっかりと約束事を決め、文章に残し双方理解の上で8時間しっかり働きましょうとすればよいのだろうか。それでは何かしっくりこない。和気あいあいと笑いながらゆっくり仕事ができればいいと思うのである。「働き方改革」はゆとりある職場環境の実現でもあるだろう。そのためには、言うまでもなく財政的保障が必要だし、いまの低医療費政策を改めさせ、診療報酬を引き上げることも求めたい。
 いずれにしても、医療という仕事の主体は患者であり、病気である。こちらの都合で「働き方」を変えるわけにはいかない。医療を労働時間という物差しで評価すること、画一的な法律で縛ろうとすることに何か納得はできないのである。

(2020年5月)